JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.352ねむの木こども美術館「緑の中」
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竣工時 撮影:Hiroyuki Hirai
現況
坂茂/株式会社坂茂建築設計
ねむの木学園 宮城まり子
TSP太陽株式会社
1999年5月
静岡県掛川市
「ねむの木こども美術館『森の中』」は、静岡県掛川市に位置する「ねむの木村」内に1999年に竣工した、延床面積300㎡ほどの平屋の小さな美術館である。
ねむの木学園は、女優の宮城まり子さんが1968年に、静岡県浜岡町(現御前崎市)に設立した社会福祉法人ねむの木福祉会が運営する肢体不自由児養護施設が出発点である。その後、障害者の生活支援施設を開設、1979年には学校法人ねむの木学園を設立し、生活支援と学校教育を並立させる包括的な障害者支援の環境づくりが目指されてきた。
障害者の社会的自立に際して宮城さんはとりわけ美術教育を重視していた。皆が静かな環境で創作活動に没頭できるような環境を求めてこの地への移転を決意し、かねてから抱いていた「ねむの木村」という守られた生活共同体のための空間構想を実現した。
敷地は、JR掛川駅から北へ7kmほどの山間地である。かつては茶畑が広がっていたが、耕作が続けられなくなった場所だと聞く。アプローチしていくと、木々の間に、学校や生活施設が点在する集落のような環境が続き、その最奥部に、「ねむの木こども美術館『森の中』」が、三角形の谷戸状の敷地にすっぽり納まるように現れる。グリッドコアと呼ばれるアメリカ製の紙製ハニカム板を用いた三角格子構造を鋼管で支え、透光性のある屋根を掛けている。正三角形平面で、外周部は3面ともガラスなので4面から外光が入るが、山林に囲まれているので直射光は制限され、かつガラス面が緑の壁面となるように考えられている。
絵画は可動性のあるランダムに配置された白い直方体のボリュームに掛けられており、三角形平面と相俟って、特定の順路を排した自由な散策のなかで、自然光のもとで作品鑑賞ができるように設えられている。
2023年に改修工事が行われたが、当初の設計意図はしっかりと保持されている。
「すべての子どもたちに可能性がある」という信念のもと、宮城さんに導かれた生徒たちの作品はいずれも素晴らしく、訪問者が精神的に健康になれる実に心地よい空間である。
ねむの木学園の優れた教育思想を記す紙幅がないのは残念だが、昨今の極めて不安定な世界情勢のなかで、人間がみな平等に生きる権利に正面から取り組まれた宮城さんと坂さんのこの作品が、建築の希望であるだけでなく人類の希望の光として永く輝き続けてくれることを願って、ここに謹んでJIA25年賞を捧げたい。