2001年度JIA新人賞

審査員:高橋 晶子/高橋 てい一/横河 健 (50音順)

[ 講評 ]


選考作品

飯田橋駅(地下鉄大江戸線)
渡辺 誠
渡辺 誠

飯田橋駅(地下鉄大江戸線)
  建築家の、いない世界で:
 東京の地下鉄駅は、これまで、土木エンジニアリングの世界でした。架構は土木、空間は標準仕様で、建築設計者の役割はタイルの色を決めるくらい、というのが実情でした。
 ここで、そうした地下世界の制約を、逆に利点に変える方法はないか、と考えたのです。
 そのひとつが、土木空間の「発見」です。
 ふつう、土木架構は仕上げで隠してしまいます。しかし、それはなぜでしょう?
 そこで、地下水に接する壁や天井はスクリーンを張り、それ以外の架構は露出させるという原則にしました。同時に、天井を走り回るダクトや配管は軌道上やスラブ下に移し、一部の架構は変更して、すっきりした、広がりのある空間を確保しました。
  埋もれた遺産を、発掘する:
これは「埋もれた架構」という、都市の「潜在資産」を「発掘」し、人々の目に「見える」ようにする「保存と再生」、でもあります。
 ここで発掘?された連続するチューブ状の空間は、地上の建築では得られない、地下ならでは、の世界です。
 こう言うと簡単そうですが、前例第一の地下世界で、こうした提案は当初、全く受け入れられませんでした。しかし10年という歳月の中で、主旨に共鳴してくれる土木・建築の方々が次第に増え、実現に至ったのです。
 こうした土木と建築のコラボレーションがもっと行われれば、道路や橋などの都市のインフラは、さらによくなるでしょう。
 このほかにも、素材からベンチまで、意味のない規制は変革するよう努めました。  氾濫するサインも、日本の駅に特徴的な問題です。サインに頼らないで空間知覚ができないかを考え、空間や色でなんとなく方向や居場所のわかる「建築化サイン」を行いました。開業後も駅員さんと相談するボランテイア活動など、設計以外の限りない調整に、膨大なエネルギーと時間が費やされています。
  ひととコンピュータの、コラボレーションから:
 こうして出現した素形の空間に、もうひとつの架構、脈動する「ウエブ フレーム」が重ね合わされています。
 これは11年前に開始した「誘導都市」プロジェクト(www.makoto-architect.com)の実施版で、コンピュータプログラムで「発生」させた世界初の建築と思われます。
 このプログラムは、厳密な角度や数などの「絶対条件」と、空間の広がり等の「意思条件」との、二種類の条件を守ります。これらの条件は互いに絡み合っていて、こちら立てればあちら立たずと、手作業で解くのは困難ですが、プログラムには解けるのです。
 そのぶん、ひとは、コンピュータにはできない、イメージやビジョンに集中できます。
 建築に課せられる条件は相互に結びつき、時に矛盾する関係です。今はそれを何となく処理している。はっきり解けないから、返って条件に縛られているのではないでしょうか。
 「誘導都市」の求めるものは、設計の省力化ではなく、ひととコンピュータのコラボレーションを通じた建築の「質」の向上です。冷たい規格化ではなく、多様で柔軟な建築。
 さらに、地上に立ち上がる換気塔では構造力学を統合し、応力により部材の大きさが滑らかに変わる架構をめざしました。(こちらのプログラムは未完です)
 「誘導都市」プロジェクトの発展版は現在、国の「未踏ソフトウエア創造事業」(未踏!)に選定され、次の展開が計られています。
 また、これらすべてを含めて、飯田橋駅の建設単価は、先行した大江戸線放射部より低く押さえることができています。

渡辺 誠(わたなべ まこと)
1952年 横浜市生
1974年 横浜国立大学卒業
1976年 横浜国立大学大学院修了
1976年−79年  大高建築設計事務所
1979年−84年  磯崎新アトリエ
1984年 渡辺 誠/アーキテクツ オフィス設立
現在 渡辺 誠/アーキテクツ オフィス代表
   東京電機大学・法政大学兼任講師