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いよいよ始めます——建築家資格制度の試行
大宇根弘司

 日本建築家協会は建築家資格制度の試行を始めることとなりました。
国際基準同等以上のものを目指し、2年間を目途に試行をした後、社会的制度として、即ち法律的裏づけはないものの社会に認知され実効のある資格制度として運用できる制度にしよう、更にその後は建築士法の改正を実現しようというものです。その際大切なことは、日本建築士会連合会との合意書の精神に基づいて行うということであり、ひいては建築関連諸団体とも広く協力しあっていかねばならないということが前提となるでしょう。
建築家という資格、あるいは建築の設計監理をする資格はどのようなものか、何故そういう資格が必要なのか、言う迄もないかもしれませんが、再確認しておきたいと思います。
高度に専門的で特殊な技能を必要とする職業は、それ故にその仕事に従事していない人々にとっては内容が分かり難いということがあります。社会的規制、あるいは従事する人の資格制度がないと社会的不利益が生じかねませんし、その仕事に従事している専門職業人の側から見れば社会に自分の姿がきちんと見えないのでは本来の力が発揮でき難いということになります。そこでその職業に携わる人の資質、能力、倫理を担保する仕組みが必要だということになり、それが資格制度だということです。言い方を変えれば、社会が社会の利益を守るためには資格制度がないと困る、ぜひそういう制度が必要だと言ってくれないことには成り立たないのです。
日本建築家協会は長年にわたって、建築の設計監理という仕事はまさにそういう仕事であり、資格制度が必要であると主張し精力的に運動を展開してきました。にもかかわらずその結果は皆さんよく御存知の通りです。私達の側からすればきわめてあたりまえの主張であったのですが、しかし社会はそういうふうには受け止めてくれなかったのです。よくよくそのことを考えて、制度の組み立てや私達の行動が社会の理解を得られるようにしないことには同じ轍を踏むことになりかねません。
さて、私達の目指す建築家資格は、具体的にはUIA基準と同等以上ということになります。その内容はよく知られているように、大学教育を受け、実務訓練を経て、試験に合格したら登録し、その後は継続職能教育を受けることというものです。この仕組みは既に指摘されているように、日本の建築士制度と枠組みにおいては同じなのです。違うのはUIA基準では大学教育が5年であること、その教育の内容を大学任せにしないで、外部機構によってチェックし認定することになっているのに対し、建築士制度では4年であること、土木学科卒でも可であること、一度建築士の受験資格認定を受ければ基本的には教育内容や教育環境についてはノーチェックであるということです。実務訓練においても前者は明確なプログラムがあって、履修証明もされるのに対し、後者は形式だけとなっています。試験の内容の比較は未だ明らかになっていませんが、建築士の試験では本当に実務に詳しい者よりは、実務は知らなくても塾で特訓を受けるほうが合格し易いことの弊害が言われています。継続職能教育は日本でも諸団体が手をつけ始めています。このUIA基準と建築士法との格差について、大学教育については日本建築学会は既に取り組みをはじめています。UNESCO−UIA建築教育憲章以上の教育が日本で行われないということになれば日本国民に対して日本の大学教育の責任が問われますし、多くの留学生を受け入れるためにも看過できないからです。実務訓練についてもJIAは試行を行っていますが、UIA基準程度のことはそれほど難しくない、受験生にとっても、指導する側にとっても負担できる範囲にあることが報告されています。継続職能教育も仕組みは出来上がりつつあり、後は各人の認識次第という段階です。このように、状況は着々と前進していますから、私達もしっかり取り組んでもう一歩先に進めようということなのです。
一方現行の日本の建築設計監理は建築士法を中心に行われています。施行後50年がたち前に記したような問題点が顕在化していますが、その中で最大の問題は、1級、2級、木造建築士で活動している人は70万人と推定され、そのうち1級は20万人で調査によればその10.7%だけが設計事務所で働いているということです(日本建築士会連合会情報)。建築士法は建築物の設計、工事監理等を行う技術者のための法律なのにもかかわらず、これでは社会の側からは誰が設計監理をしてくれるのか分かり難いことは誰の目にも明らかです。専攻建築士制度の提唱はまさにそういう建築士法を運用で改善しようというものですから、私達もその改善に協力し、それを実質的にUIA基準と同等以上のものにすることができれば、私達の試行しようとする制度と結果的にひとつのものになるはずです。
私達日本建築家協会の正会員は建築家だとしています。私達自身がその建築家資格を提唱するわけですから、建築の設計監理に携わっている正会員はこの試みに参加しなければなりません。
先輩達の長い長い運動の結果でもあり、会員の強い願いをいよいよ実現しようということでもあります。又、この試みは何より、これから建築家になろうという次世代の人々のためでもあります。
ぜひ、この試みを成功させましょう。

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