3月29日に開かれた建築設計資格制度調査会(5会調査会)で、「建築設計資格の国際化対応」と「専門分化」の二つを緊急課題として協議することが決定された。これを受けて、その具体的進め方を5会の専務理事レベルで協議してきたが、とりあえず二つの課題のうち国際化対応を優先して協議を進めることとなり、8月2日、そのための第1回の幹事会が行なわれた。JIAからは中田亨専務理事と建築家資格制度推進会議の河野進、和智信二郎の両委員が出席した。
この幹事会に今後の協議のための素案としてJIAが提案したのが、下記の「国際化に対応するための建築設計資格制度」案である。標題に“国際化に対応する”と掲げてはいるものの、もともとJIAが提案してきた建築家資格制度はUIA基準に準拠するもので、この案は従来の案と何ら変わるものではない。ただ、将来のあるべき建築家資格制度だけでなく、それに至る当面の経過措置を明示した点で、一歩踏み込んだ提案となっている。
JIAの主張の基本はこの「試案」の「検討の前提」にこめられており、その一つは新しく作られる資格制度は資格の本来の意義である「消費者保護のための設計者の能力証明としての機能」を果たせるものでなければならないということ。第二は将来の建築家資格制度を明確に設定した上で、現状からのスムーズな移行や目前に迫ったAPECアーキテクトへの対応を考えるべきであるということ。第三はUIA基準に適合し、国際的な相互認証に対応しうる資格制度が即、わが国の建築家資格制度であるべきで、国内の資格と国際資格の間にレベルの差がある、いわゆるダブルスタンダードになるようなものであってはならないということである。
幹事会には日本建築士会連合会及び建築業協会からも案が出され、これらの案をもとに幹事会協議が進められることになるが、来る9月16日にはAPECアーキテクトの第1回国際調整委員会の開催が決まっており、2年内に制度の成立を目指していることから、国内の協議も急速に進むことが期待される。
なお、当試案は建築家資格制度推進会議(鬼頭梓座長)で承認され、7月25日の理事会に報告されたものである。
(中田亨)
国際化に対応する建築設計資格制度
(幹事会協議のための試案)
日本建築家協会JIA
検討の前提
1. まず国際的に同等性が認められる建築設計資格制度の将来像を設定した上で、APECアーキテクトへの当面の対応は、その将来像に至る経過措置として考える。
2. 将来国際化対応の資格と、国内の資格とが、二重基準(ダブルスタンダード)にならないようにする。
3. 将来の在り方として設定する建築設計資格制度は、消費者保護のための設計者の能力証明としての機能を果たせるものとする。
4. 現在の一級建築士からの移行がスムースに進むように配慮する。
5. UIA基準に準拠した資格制度を基本としたうえで、教育、実務訓練、資格認定、継続職能開発の各段階について、代替ルートや措置を用意する。
提案の概要
1. 現在の一級建築士の制度は、設計監理以外の分野も含む建築に関する基礎的能力を示す資格として残し、そのうえに内容証明を伴う実務経験を経て、専門家資格としての建築設計資格(及び構造専門資格等その他の専門分野の資格)を認める認定制度を創設する。
2. 業務独占は専門家資格としての建築設計資格(及びその他の専門資格)を取得した者にのみ認め、今後新たに一級建築士相当の資格を取得する者にはこれを認めないこととする。ただし、現在すでに一級建築士の資格を有する者については適用を除外し、終身にわたり業務権限を認めるものとする。
3. 建築設計資格者は、継続職能開発CPDを義務付けられるものとし、CPDを一定期間ごとの資格更新の条件とする。
建築設計資格認定の制度的枠組み
1. 当面は、建築設計資格制度調査会を母体に、国も関与するかたちで民間主体による協議体を組織して全体的な制度の管理運営機関とする。
2. 1の全体的な管理運営機関の下に、資格制度の各段階について関係団体等による第三者性を持った個別の認定機関を設ける。
3. 将来ある程度上記の運営が定着してきた段階で、可及的速やかに建築士法を抜本的に改正し、この制度を法制化する。
資格制度の各段階ごとの内容
1 教育
1) 認定(アクレディット)された建築に関する大学4年及び建築設計に関する大学院修士課程2年を修了することを基本とする。
2) 4年制の大学の建築コース(及びこれに準ずる学科のコース)を終了した者については、内容証明を伴う一定期間の実務経験をもって1)と同等とみなす。
3) 大学以外の学歴を有する者については、2)に準じて内容証明を伴う実務経験により教育に替わる同等性の認定規則を定める。
経過措置
制度が整うまでの間、経過的措置として一級建築士の資格を有することをもって必要な教育要件を満たしているとみなすこととする。
2 実務訓練
1) 1に定める教育の要件を満たした後、定められた規則に従い、一定期間の指導者による内容証明を伴う所定の単位数の実務を経験することを基本とする。
2) 倫理、事務所の管理経営等OJTでは習得しがたい事項については、職能団体等の適切な機関による講習等により補完する。
経過措置
制度が整うまでの間、経過的措置として一級建築士資格取得後一定期間の、第三者による証明を伴う業務経験をもって、必要な実務訓練を終了した者とみなすこととする
3 資格認定
A. 基礎的資格。
1) 1の1)の教育要件を満たした者は、試験を経ることなく、現在の一級建築士に相当する基礎的資格を有する者として認定することを基本とする。
2) 4年制の大学の建築コース(及びこれに準ずる学科のコース)を卒業した後、2年以上にわたり建築に関する何らかの業務に従事した者については、一定の試験または考査により基礎的資格を認定する。
B. 建築設計資格
2の実務訓練の要件を満たした者について、一定の試験または考査により建築設計資格の認定を行うことを基本とする。
経過措置
制度が整うまでの間、経過的措置として一級建築士資格取得後、一定期間の内容証明を伴う実務経験を有する者については、一定の試験または考査により建築設計資格の認定を行う。
4 継続職能開発と資格の更新
1) 基礎的資格については、現在の一級建築士と同様の終身の資格とし、継続職能開発は努力義務とする。
2) 建築設計資格は一定期間ごとに登録の更新を義務付けるものとする。
3) 建築設計資格を有する者については、一定の規則に基く継続職能開発を義務付け、資格の更新の条件とする。 |