2008年度JIA新人賞講評

2008年度 JIA新人賞  現地審査作品
作品名 設計者 事務所名
隙屋 鈴木幸治 ナウハウス一級建築士事務所
rim 下吹越武人 A.A.E.一級建築士事務所
神保町シアタービル 山梨知彦+羽鳥達也 日建設計
F-HOUSE 窪田勝文 窪田建築アトリエ
階段の家 三宅正浩 y+M design office
カムフラージュハウス3 井口浩 井口浩フィフス・ワールド・アーキテクツ



講評: 渡辺 明

 

新たな技術の力を信じきった作品に乾杯。

 

窪田勝文
岩口の山々が近くに美しい風景を透化してくる。窪田さんの長年の経験から、鋭いエッジがきいた、折り紙のような形がコンクリートで全て、いこまれていた。
(私自身の最初の印象は、銅板では、、、と思考していた。)
内部は、真っ白な漆喰空間がしつらえられ、ストレートに配置された家具、線と曲面の白色の出会い空間は一見、無限大への意識を与える手法ではあるが、何か感動が生じなかった。それにはシンプルイズベストの言語が少しずれてはいないのか。

 

岩屋宏一さんの階段の家
青い日本海に出ると心が躍り、当地についた。前面通りとはさんで、 競技場のバンクがせまり、その景観から垂直に立ち上がる壁のイメージは確かにない。ルーフの階段に登ると、3方は田園広がる、岩田の田舎がそこにある。
中では、二人のお子さんが、のびのびした童子の顔で誇らしげに迫ってくる。階段上に天空にのびる空間は、子供の遊び場として成立している。
階段の蹴上げを光を内部に入れるための手段としたアイディアはすばらしく、その光量は、生活を十分に支えるだけの、力の入った作品となっていた。惜しむらくは、環境としての正面アプローチに難がある。場を環境としてとらえるならば、アクセスは周囲に対する配慮が必要なかったか。

 

井口浩(カムフラージュハウス)
森林の中を貫け左に曲がると、南傾斜の裾野が広がる台地が待ち受けていた。
残雪が少しではあるが、足元に注意しながらのぞき込むような姿勢でガラスの箱へ目線を追って行った。すると、水面に近い輝きが空を映しだしている光景に出会った。半円を描くように辿り着くと、三角形のガラス空間と、長方形の組み合った形体が建築の形として現れて来た。ガラスの空間は、より透ける中で、生活ゾーン毎に区別しており、森と人と犬の中間領域と位置付けられたことによって、付加価値が生まれた。このように住まう人の生活を分析・解析した井口さんを高く評価したい。
又、エコ・ソーラー・未来代替エネルギーと近未来を予感させる森のライフスタイルである。

 

下吹越武人さんのRIM
近隣の採光を考慮し生まれた五角形平面により、周囲へと明るく開放された。一生懸命努力されたフレームが構造の一部として内なるインテリアとしても同時作用され、フレキシブルな空間対応となって成立している。しかし、集合の持つエネルギー、特に生活におけるコミュニケーションの場は失われ、それ故に孤立したことが寂しすぎる。
住まう個別性の意識を重大であるとしても、個の内敵性と中間階の共用テラスの外敵性、この二極が生み出されることで、生活のリズムを倍増してほしい作品であった。今後が楽しみの人である。

 

総合評価
2008年は、44点の応募作品の中から、13点が選ばれ、仙台メディアテークの公開審査が開かれた。5点の作品が現地審査へと進み、その内、住宅系が3点、集合住宅1点、シアター1点、今年の総合評価では、住宅系が70%近い数字に驚かされた。また、地域で見ると、5作品のうち3点が地方、都市2点、それぞれの時代感を映し出していた。本来建築の本質は文字文学に代表される石の文で形式美が創られているように心と形の美が同体となった視点で表現されることを熟慮しながら、現地審査の立ち合いで進められた。


講評: 篠原 聡子

 

 
それぞれに、ビルディングタイプもプログラムも異なる秀作の中にあって、新人賞を受賞した神田の小劇場と軽井沢の山荘は、その取り組みの現在的な意味が高く評価された。
隙屋は、納屋のようなプリミティブな建築の力強さを期待していたが、実際にはまさに数寄屋の精度を感じさせる建築であった。しかし、地階からトンネルをくぐって突きだしたテラスは、浜名湖を眺望でき、極めて心地のよいスペースであった。
rimは賃貸の集合住宅の厳しい制約の中で、画期的な構造形式が、室内のアクティビティに関係づけられている点に共感を覚えた。建築基準法の改正により、このような自由な構造形式が実践されることが難しくなったのは、残念なことである。
F−HOUSEは、非常に完成度の高い住宅であるが、個人住宅がそれ以上のものであることの難しさも感じさせた。
階段の家は、ランドスケープと建築を一体的に解くという果敢な挑戦は評価できるが、階段以外の立面において、周辺への同調性が薄く、残念であった。また、インテリアももう少し、整理された方がこの建築の骨格を表現できたように思う。
カムフラージュハウスは、環境的な試みを、できるだけ素朴に解決しようとしているところが高く評価された。建築としは、ややものたりないところもあったが、その取り組みの姿勢は充分、反映されていた。

神田のシアタービルは、気ままに鉄板を貼り付けたようにみえた外観が、実に丁寧なディテールによっていることに感心し、組織事務所の実力をみた思いがしたが、多くの観客を集めていることが、この建築に対する何よりの評価であろう。
講評: 淺石 優

 

カムフラージュハウス3
この住宅は、道路側からのプライバシーを確保しつつ、室内から順光で緑の風景を眺めることができる地形に呼応した断面構成になっている。鉄骨のガラス温室とソーラーウォールで囲まれた木造の空間が組み合わされていて、自然の懐で、時間の移ろい、天候や四季折々の変化に応じて、生活の中心や生活パターンが変化していくことを楽しめそうな住宅である。それらを裏付けているのが、夏は落葉高木の緑陰を利用し、冬はダイレクトゲインを取り込むといったシンプルな手法を基本とした、自然のパッシブソーラーシステムである。全体がローコストでシンプル、アマチュア的な技術だけで素直に構成しているところが実に新鮮であり、森の生活のたのしさや建築の可能性を感じさせる住宅であった。

 

神保町シアタービル
かつては、芝居小屋が掛かり、活気のあった神保町に若い人を呼びよせ、街のにぎわいを取り戻すにふさわしいホール建築である。斜線制限と容積率を逆手にとって、狭い道路に面した狭小敷地に多面体のボリュームを発想した段階ですでに芝居小屋のイメージに行き着いていたのだろう、三角形を基本とした薄い鉄板とコンクリートとによるダブルスキンのシアタービルは異彩を放っている。内部は打ち放しコンクリート仕上げ、映画館と花月ホールを差異化、それぞれのホールへのアプローチ階段のアクティビティを表出させるなど、コンセプトを素直に表現した街を元気にする建築である。幕間には、街の喫茶店を利用してもらい、街ににぎわいをもたらそうということで、敢えてカフェテリアを設けなかったことも特筆される。

 

隙屋
浜名湖の畔につくられた納屋をモチーフにした切妻のシンプルなかたちのセカンドハウスである。既存樹林を防風林とする配置のあり方、傾斜地にふさわしい断面計画、伝統的な素材と工業製品と自然素材を統合したディテールワークとその新しい表現、スリットからのひかりの効果、昼と夜との劇的な変化、浜名湖を我がものにするコンクリートのメガフォン状のテラス等など完成度が高い建築である。ただし、外壁同様、屋根も隙になっていなかったのが残念だと思う。

 

Rim
都心に建つ賃貸の高層集合住宅である。構造は、リム部分のコンクリート壁と縦横に配されたリブとそれらに直交する壁とスラブだけでシンプルに構成されている。構造を仕上げに反映していて、内装は打ち放しコンクリート仕上げ、リブはノロ引きされている。サッシュ無目の太さは気になるところだが、窓の高さに合わせて横リブのレベルがかわり、棚であったり、窓辺のベンチであったりといった具合にアクティビティを誘発するような造作になっている。立面も含めてレベルの高い集合住宅である。

 

F-HOUSE
この住宅は住宅地の縁の部分に位置し、コンクリートでありながらエッジの利いた軒先を持つ屋根と壁の区別のない真っ白いボリュームが緑の山々を背景に芝生の基壇上に置かれた美しい建築だ。手前の道路側は壁表現とし、アルミ型材を櫛状に立て、プライベートガーデンの境界をつくり、反対側は開放面として、緑の風景を取り込むといった配置のあり方も際立っている。精緻な窪田ディテールの大型ガラススクリーン、抽象的で美しい室内空間であるが、窓際の2本柱が少々気になった。

 

階段の家
文字通り、傾斜した屋根が階段状になった住宅であり、屋根面を外部に開放しようという意識を持ってつくられていて好感が持てた。段板やそれらを支持する大梁などきれいな現し天井の内部空間は、キッチンと二階寝室の窓を除いて階段スリットから光を導入した2層のワンルーム空間である。アクティビティを誘発する、子供が元気に走り回るにふさわしい空間になっていた。ただし、小さな石組の庭はこの住宅には不釣合いであった。