2008年度JIA新人賞

審査員: 審査員: 渡辺 明・篠原 聡子・淺石 優

受賞作品 : カムフラージュハウス3  


 井口 浩

井口 浩(井口浩フィフス・ワールド・アーキテクツ)

1984年 明治大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程終了
1995年 (株)井口浩フィフス・ワールド・アーキテクツ代表取締役
2000年 NPO法人ミレニアムシティ理事長
2001年〜2003年 明治大学講師(兼任)
2008年〜神奈川大学講師(非常勤)

受賞歴
2002年 東京建築賞優秀賞
2005年 住宅建築賞奨励賞
2006年 環境・設備デザイン賞
2008年 INAXデザインコンテスト銅賞
2009年 第3回サスティナブル住宅賞入賞
    第24回日本建築士会連合会賞奨励賞


カムフラージュハウス3
撮影:Alessio Guarino


Concept

この住宅を貫く大きなテーマは、「文化としての建築デザインと環境共生との両立」である。風雨をしのぐことや耐震性を含む安全性、耐久性等といった建築の基本性能を充分満たしたうえでこの2つのものの両立が非常に重要と考えている。
現在、世界中で地球環境問題とその解決策が模索されている。予防原則にもとづいた多くの分野での試行錯誤が行われている中、建築設計には大きなインセンティブ効果が期待されている。そのことに、最大限応えられる建築のあり方とは何か?それを探求し、具体的なひとつの例として提示することがこの住宅の役割と位置づけた。ポイントは、自然界はすべてがつながっており、混成系であることを踏まえ達成するべきは「どちらか一方だけからどちらも」であること。それ故「一石十鳥を狙う」こと。環境共生性能を充分そなえながらも「美」や「粋」を表現する手法としてのデザインをないがしろにしないこと。逆に、プロポーションや配置計画等の美を追求するプロセスで環境共生性能の優先順位を低くしないこと。両者の制約付けがそれぞれの自由さを奪うことでなく、むしろ新しい建築の可能性を生むかもしれないという立場に立つこと。それ故、この住宅は特殊解というよりもむしろ、これからの環境の世紀における「両立の建築」とでもいう建築のあり方のプロトタイプ(汎用性モデル)の可能性の提示であることを強調しておきたい。


この住宅は軽井沢の千ヶ滝地区にあるが、別荘ではない。施主は夫婦+子供1人であり、夫婦ともインターネットを使った在宅勤務+妻は週の約半分を東京圏へ通勤するライフスタイルをとっている。

地形と建築を一体のランドアートとしてとらえる

この住宅の大きな特徴のひとつは、なだらかな南斜面の地形を利用して、建築を斜面の一部の形とすることで、大きなすり鉢状のランドスケープをつくり、地形と建築を一体化したランドアートとしてとらえたことである。それ故、すり鉢状の外側の外部道路からは室内が見えない。隣地からもガラスの屋根に空と樹木が映り込んで、室内が見えずプライバシーを確保していると同時に、室内からは大きな自然の広がりを眺めることができる。

落葉高木を用いた自然のリズムのパッシブソーラー
もうひとつの大きな特徴は、落葉高木を使った自然のリズムのパッシブソーラーを用いたことである。ガラスの大屋根にあけられた3ヶ所のポケットと南東側にケヤキを植え、西側隣地の大木を西日よけとして利用している。また2階南面にはツタ類の野菜による緑のカーテンを設けた。これらにより、夏は葉が茂り日射を遮るため涼しく、冬は落葉してダイレクトゲインをとりこむことで暖かい自然のリズムのパッシブソーラーハウスとなっている。寒暖の差の激しい温室と母屋の間は、断熱材(半透明)入りの可動間仕切りで仕切ることで、室内温熱環境の微妙な制御を可能にしている。

ガラスのソーラーウォール
さらに、東、南、西面にはガラスの押縁下見板張りのソーラーウォールが設けてあり、冬はセンサー制御で室内(書庫、浴室、寝室)に温風を送り込む。ソーラーウォールの室内側は、半透明の断熱材を用いているため、昼間は照明が不要なほど明るいとともに、木もれ日や木枝の揺らぐ影が映り込んでくるなどの効果がある。

室内空気の温風循環システム
また、ペレットストーブの暖気や温室上部の暖気を利用した温風循環システムもとりいれており、ペレットストーブの背後の熱を集め寝室と書庫へダクトで送風していることと、温室上部の暖気をファンによりLDKへたち下げている。

ペットとの共生
以上のようなデザインと温熱環境上の様々な工夫に加え、施主と飼っている2匹の大型犬との共生を考慮して、内部と外部の床をウッドデッキとウッドチップの土間で連続させることで、犬が土足で室内外を自由に行き来でき、施主とふれあえる工夫も取り入れている。