2007年度JIA新人賞

審査員: 小倉善明・工藤和美・室伏次郎

受賞作品 : 桝屋本店  


平田晃久

平田晃久(平田晃久建築設計事務所)

1971年 大阪府に生まれる
1994年 京都大学工学部建築学科卒業
1997年 京都大学大学院工学研究科修了
1997年 伊東豊雄建築設計事務所
2005年〜平田晃久建築設計事務所主宰
京都造形芸術大学、日本大学、東京理科大学非常勤講師

受賞暦
1994年 京都大学最優秀卒業設計賞(武田伍一賞)
1996年 NEG空間デザインコンペティション一等
2003年 安中環境アートフォーラム国際コンペ 佳作一等
2004年 SDレビュー朝倉賞(House H)
2006年 SDレビュー入賞(House S)


桝屋本店
撮影:Nacasa & Partners

複雑な距離を織り込む
平田晃久
 新潟に建つホンダ汎用機を中心とした小型農機具のためのショールームである。
 人が本能的に興味を感じる自然環境のような場所を人工的につくりだすことを考えた。それは、たとえば広い海のなかでサンゴ礁に魚達がひきつけられるのはなぜか、といったきわめて素朴な問いである。見通せない連続空間、少しずつ見え隠れしながら幾重にも奥行きをなしている空間で、人は奥へと誘い込まれながらその都度小さな発見を繰り返す。
 5メートルグリッドのコンクリート壁を適宜斜めにカットするだけの所作でこの建築はできている。しかし、平面的に45度振れた斜めの開口は従来のような水平・垂直の秩序とはまったく違う世界をつくり出す。遮断されることをoff、接続していることをonとすればこの斜めのラインはonからoffへの無限の諧調を含んでいる。内部を歩くと、それらが立体的に輻輳しながら展開することになる。遠くのラインはゆっくり、近くのラインは早く動くから、その重ね合わせは予想もつかない複雑な効果を生む。まさに自然環境のような、人間の動物的な部分に訴えかける空間である。
 複雑な距離を内包した一体的な空間、プランというツールに縛られない動的な立体性を持った身体に近い空間を、明晰な方法でつくることを意図した。