審査員講評


富永讓(審査委員長)
 
 現地審査で訪れた7作品は、どれも現代社会に対する建築側からの提案を含んだ力作揃いで、私自身勉強になったし、また審査員同志の議論も盛り上がった。
 社会のなかでルーチンで生産されている一般の施設のあり方に疑念を持ち、それぞれの場所の建築課題を解決するなかで建築によって生活空間を豊かなものに導こうとしている。〈枚方T-SITE〉は駅前に〈町のリビング〉を透明感のある建築構成によって創り出そうとするもので、シャープで魅力ある造形は一般の駅前再開発の空間のレベルを引き上げ、洗練された場を現出させた。
 〈国見町庁舎〉は庁舎建築としては単一ボリュームのよくあるものではあるが、鉄骨を芯とする木材のアカマツの使い方は素朴で木の素材を十分に生かし、格調のあるプロポーション、そしてスケールもよく、判断の正しさを感じさせた。木を使った庁舎というと素材や架構法を見せつけるようなものが多く疑問に感じていたからである。
 〈司化成工業つくばテクニカルセンター〉は小規模な働く場に対する提案で、それは住宅のようなオフィスである。モダンデザインを基調に比例やディテールが追求され、今では珍しい気品に満ちた繊細で爽やかな作品である。
 〈ナセBA〉は図書館に対する大胆な構想が注目された。閉架の書物を吹抜けの上に解放した本に囲まれた閲覧室の大空間は魅力あるものであった。
 優秀賞に選ばれた〈太子の環〉は地方庁舎のあり方に一石を投げかけるものである。一般に動線や費用の効率からすると単一のボリュームとなってしまうのだが、庁舎、議場、地域交流センターいう異なった種類の活動を市民の利用の側から、小さなブロックとして配し、広場のネットワークによって結びつけ、内部と外部を一体のものとして利用しようとする提案である。公共施設の未来を見据えた計画ではないか。端正な美しいデザインで、美しい使われ方を設計者と依頼主が一体となって追求し、実現に至っていることも、建築家の力を感じさせる作品であった。
 もう一つの優秀賞〈コープ共済プラザ〉も執務スペースを中央にとり、窓側に動線を取り、縁側的な場所を移行の空間としていることは日常の生活経験からして自然であり、ストレスのないフレンドリーな執務空間が生み出されていると思う。効率の場にも人間の自然が見直されていることに注目した。設計者は〈普通の〉という言葉を使っていたが、こうしたオフィスのあり方が一般化し、是非普通のものになってほしいものだと思う。
 大賞に選ばれた〈道の駅ましこ〉は、まずオリジナルなアイデアがあって建築として魅力がある。明快な集成材の構成で大胆であるがヒューマンスケールもある。3本の並列された山型の屋根のリズムが、内部の機能の場の歪みを表出し微妙にズレながら重層し、風景に奥行感をつくり、地域の拠点になっている。小さな町が個人の建築家に重要な建物を依頼し、また建築家がその役割を引き受けて悪戦苦闘しながら設計に携わり、この清々しく、ダイナミックな建築を生み出し、またそれが親しまれ、使われていることに、改めて〈建築的なもの〉の永遠を感じる作品であった。
   
磯達雄
 
 審査員3年目となる今回は優れた作品が多かった。最終審査まで残った3作品は、いずれが大賞でもおかしくないほど高いレベルの建築だったと思う。
 最後まで大賞を競った「コープ共済プラザ」は、鎖とツル植物による緑のスクリーンにまず目がいってしまうが、両端コアのオフィスプランを生かした自然換気や窓辺の動線確保、ピロティの風穴によるビル風やヒートアイランド現象の緩和など、様々な環境的アイデアが凝らされている。都市にあまたある中規模ビルの新しいモデルとなりうる建築だ。
 同じく最終審査で優秀建築賞にとどまった「太子町新庁舎『太子の環』人がつどう・まちをめぐる・太子がつながる」は、庁舎と地域交流施設を一体的に、分棟形式で建設したものである。特筆したいのは、日常的に人が通り抜ける広場に面して大きなガラス面を取った議場で、これなら議員は町民の代表であることを決して忘れないだろう。
 大賞に選ばれた「道の駅ましこ」は、ずれながら並行するジグザグの木造架構が最大の特徴。両側の妻面がガラスで覆われ、その透明性により周囲の山並みと溶け合って、絶妙な美しさを醸し出している。現地に赴くと、建物から見える広大な田んぼもまた素晴らしいものだった。「風景をつくる建築であるとともに、風景を見るため建築である」との設計者による説明には大いに共感できた。屋根の構造デザインは、地元産の木を集成材に使用することと、内部の面積配分が施設関係者の声を入れてギリギリまで変わることの両方を満たす解法になっていて、その点にも関心させられた。
 今回の現地審査作品では、「道の駅ましこ」に加えて「福島県国見庁舎」「つくばテクニカルセンター」の3作品が、それぞれに異なるやり方で木を構造に用いている。建築への木材活用が推進されるようになって久しいが、木を使うことで評価されるのではなく、いかに上手く木を使ったかで評価される段階に来ていることをあらためて実感させられた。
 「木」とともに「本」も、現地審査作品の複数で共通テーマとなっていた。「枚方T-SITE」と「市立米沢図書館・よねざわ市民ギャラリー」は、電子情報の時代に物理的な本という存在を用いて新たな図書空間を生み出しており、他作品との比較で最終審査までは残らなかったが、高く評価したい。
 こうした共通テーマは、近年の建築全体に見られる傾向を反映したものと言えそうで、興味深かった。
   
後藤治
 
 本年度、初めて審査を行わせていただいた。以下、審査評というより、審査をしての感想を述べる。
 第一段階の書類による審査では、キャンパス計画、街区再開発といった大プロジェクトから小さな住宅・店舗にいたるまで、多種多様な作品を同列で審査する難しさを感じた。同じ枚数の書類で説明するのだから、規模が大きく建物数が多いほど、内容を伝えるには不利である。私が知る歴史的建造物の再生も、個人的には良い作品と思っているが、高層ビルとあわせたプロジェクトという形で応募しており、第二段階の現地審査の対象にならなかった。歴史的建造物の再生だけで応募していたら違った結果があったかもしれないと思う反面、プロジェクトは高層ビルがあってこそ成り立つので、プロジェクトの一部を切り取って応募するのも、いいところ取りのようで、いかがなものかとも思う。難しいところである。
 第二段階の現地審査では、いずれの作品も、色々なことが考えられ、随所に工夫が凝らされており、感心した。また、書面で受ける印象と、実際に見る印象は大きく異なっており、現地審査の重要性を感じた。もうひとつ現地でわかったのは、良い作品は、設計者である建築家が優れていることはもちろん、良い施主と、良い施設運営関係者がいることである。その意味では、最終審査に残った3作品は、設計者とその関係が、他より優れていたといえる。
 最終審査では、設計者のプレゼンを聞かせていただいた。何歳になっても、プレゼンして批評を受けるのだから、建築家は大変な商売である。大賞となった「道の駅ましこ」は、現地審査のときに、施設の運営関係者のほとんどが、笑顔で設計者にあいさつをするのを見て、たいへん感激した作品である。近年流行の木材を使った施設だが、木材の利用を大屋根の梁に限定し、壁や窓廻りに使わなかったところが、良いバランスを生んで成功している。木材はたくさん使えばよいというものではない。また、目立たないところだが、便所を分棟としない道の駅というところも評価できる。この作品が先例となって、今後はこの形が増えると良いと思う。
 各段階の審査で、共通して重視したのは、作品の趣旨・目的やコンセプトと作品の内容が一致しているかどうか、という点である。学生設計でも取り上げられるシンプルな課題だが、意外に実現できているものは多くない。例えば、設計者がコンセプトに「まちの●●」とうたっているが、作品と周辺との関係が物足りず、「まち」というには地域計画との一体性等の説明が必要では、といった具合である。その意味で、大賞、優秀賞の3作品は、コンセプトと作品の一致という点においても、他より優れていた。
 最後に、豪雪と強風という悪天候の影響で、山形県米沢市の市立図書館Nase-BAの現地審査に行くことができなかった。この場をかりて関係者にお詫びしたい。
   
相田武文
 
 今回の現地審査は7作品で、いずれも高い水準を保ったものだったが、総体的に落ち着いた作品が多かったように思う。今年は雪の多い年でもあったので、雪景色を楽しみながら見学する作品もあった。
 審査の結果、建築大賞に選ばれた作品「道の駅ましこ」は、風土に根ざした諸々の要件を巧みに取り入れ、それをシンボライズし、ひとつの造形物にしたところに魅力を感じた。雪景色のなか益子駅からタクシーで現地に向かうと、雪化粧した田圃の向こうに連続したおだやかな三角屋根が見えてくる。それは、設計者がいう「風景でつくり、風景をつくる建築」そのものであった。益子というまちにふさわしい建築が出現し、まちの人たちに愛される建築ともなったのである。空間の豊かさを倍加させている木製の梁、この梁の断面を一定にすることによって平面型の変化に対応できるなど、この種の建築に対する設計者の配慮が見て取れた。
 優秀建築賞に選ばれた作品「コープ共済プラザ」は、今後のオフィスビルのあり方を考える試金石ともいえる建築である。設計者のいう「普通を考え直す」というコンセプトが随所に散りばめられているように感じられる。緑に覆われたバルコニー、明治神宮からの風をピロティを通して明冶通りへ、などヒートアイランド現象を抑制する試みがなされている。平面計画はオフィスに通常みられる中廊下型ではなく、カーテン状のグリーン側に通路があり、オフィスで働く人が移動の際に窓外やグリーンの変化を楽しめるように意図されている。
 優秀建築賞に選ばれたもう一つの作品「太子町新庁舎」は、行政棟、議場棟、交流棟それぞれが、巧みにアーティキュレーションされ配置されている。南側から北側に通り抜ける中間地点に交流広場がある。この交流広場から議場がガラスを通して見えるのである。しかも議場として使わない時には、町民に開放されるとのことである。大袈裟な言い方になるが、民主主義が醸成した思いを感じた。聖徳太子ゆかりの地としての太子町で、古くもなく新しくもなく気品ある作品だと思う。
 その他現地審査で印象に残った作品は、「市立米沢図書館」である。図書を壁面の四周に陳列する方法は、これまでも見られた手法ではあるが、この図書館は図書館らしい表徴性があり魅力的である。図書館の中心に郷土の偉人を偲ぶ展示空間があり、郷土愛を強調したコンセプトは理解できるが、この展示空間がアプローチの正面にあり、全体を凡庸にしてしまったように思え残念である。
 私の性向からいえば、もう少し刺激的で議論を呼ぶ作品が欲しかった。来年多くの応募がなされることを期待したい。
   
淺石優
 
 今年度の100選の中から現地審査対象7作品を選び、現地審査の結果、「太子町新庁舎」「コープ共済プラザ」「道の駅」が公開審査対象作品に選ばれ、審査の結果「コープ共済プラザ」「道の駅」に票が集中した。この2作品、どちらが大賞でもおかしくない内容、3:2で「道の駅」が大賞となった。これら以外では、商業施設でありながら街のリビングルームという新しいタイプの公共の概念を提示した「枚方T-SITE」がよいと思った。米沢の図書館は、閲覧室の大空間を書籍の壁が取り囲んでいるところは大変よかったが、複合建築でありながらブックミックスになっていないのが残念であった。
 道の駅
 審査で南側からアプローチした際に、遠くに見える緑の山並みをバックに広がるのどかな田園風景、そのなかに佇む建築を目の当たりにしたとき。作者の云う「風景の建築」に合点がいった。地場産材による木架構と益子の土で左官された壁体で構成された空間の骨格がしっかりした建築である。屋根は周囲に広がる山並みの繋がりを感じさせ、それぞれの勾配や高さを変化させた屋根と地面から生えたような壁体が織りなすゆるやかに分節されつつ繋がった空間をつくるのに成功している。益子には郷土愛や誇りを持っている人たち多いと云う。実際、益子の人たちが家具や備品を作り、地場産商品が陳列され、運営がなされていて、そこにいる人たちが生き生きとしてみえる。建築がそれらのショウケースにもなっているのである。
 コープ共済プラザ
 2011年東日本大震災、東京でも天井が落ち、窓が開かないオフィスが問題になった。こうしたことを教訓とした最新の環境設備システムと融合したオフィスビルである。8時間労働は、一日の三分の一をオフィスで過ごすということであるが、これにふさわしいオフィスビルを殆ど見たことがない。生協の全活動において、co 2 を2050年には90%削減するという壮大な目標を持つクライアントと四つ相撲を取り、日建設計・環境設計標準?を更に超えた人体に近い建築のしくみをつくりだしていると思う。外観の特徴である壁面緑化は、たっぷりと土が入った各階のテラスで内部と繋がった街路樹のような存在であり、窓側通路のオフィスレイアウトにすることで、時間や天候の変化、季節のうつろいを日常的に感じることができる長時間過ごすにふさわしいオフィス空間を実現している。
 太子町新庁舎
 敷地の三辺が道路に接している。それらを繋ぐようにアプローチが形成されていて、広場を中心にした回遊動線が形成されている。行政、議会、交流のそれぞれのゾーンが分散配置され、交流広場、街道交流広場とで関係づけられている。各ゾーンのヴォリュームは更に分節され、外装もタイル,白色塗装、打ち放しコンクリート仕上げを使い分けていて、小さなこの町にふさわしいスケールの群建築になっている。クライアントの思い入れが大変つよく、良いデザインの家具の選定、サイン、張り紙のコントロール、ごみひとつない室内環境等々、建築への愛を込めた管理運営がおこなわれていている。日曜日にもかかわらず賑わっていて、太子町の街くらしの新しいライフスタイルを育んでいきそうだ。