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日本建築大賞 
中村キース・ヘリング美術館
設計者:北川原 温 北川原温建築都市研究所
中村キース・ヘリング美術館 外観
中村キース・ヘリング美術館 中村キース・ヘリング美術館 内部
敷地は八ヶ岳が裾をひくゆるやかな斜面。
北川原 温
八ヶ岳はかつて富士山より高い山であったという伝説のある古代の活火山。その裾野には中小の河川が放射状に流れ、帯状の台地や尾根をつくっている。尾根や台地には縄文時代の遺跡が数多く残り、また他の地域では見られない特徴的な文様を施された土器が出土している。そこはかつて活火山のエネルギーが充満し、人々が集まり、文明をつくり出すプリミティヴな生命力に溢れていたことが想像される。
キース・へリングのアートは多民族大都市であるニューヨークというひとつのカオスから生まれた。それは高度に集積された人工環境から発露された生のエネルギーを内包しているように感じられる。
ニューヨークで生まれたアートと小淵沢の自然。全く相反する環境にあるこの両者に通底する生命に対するプリミティヴな感受性を尊重し、この地にこの美術館は計画された。古代と現代をつなぎ、異文化を衝突させ、地域に全く新しい文化をつくり出す試みである。

「ひとつの枠組みでつくられる建築」と「枠組みを持たない建築」。
一般的にひとつの建築は、一貫性を持ったひとつの枠組みをもつ。この枠組みを失うことへの不安を乗り越えたい。この計画は枠組みをもたない建築 —すなわち空間体験者が枠組みをつくることができるような— をつくることへの挑戦でもあった。
施主との議論やデザインディベロップメントの過程で様々なイメージが生まれ、空間がつくられていった。各々の空間が独立し、その多様性を保ちながら共存する。
こうしてできた建築は、訪れる人の想像力をより強く喚起し、様々な解釈を愉しむことができる豊かな空間体験をもたらすに違いないと考えた。