JIA環境建築賞

第19回環境建築賞 総評

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 近年は、記録的な高潮による浸水や激しい雨によって各地で土砂崩れなどを引き起こし、常に災害と共に暮らしているように思う。多くの研究者から地球温暖化がそのひとつの要因として揚げられているが、日本の安全安心な社会に結びつけるべく、SDGsの掲げる「レジリエント防災・減災」の構築については早急に対処せざるを得ない、待ったなしの状況下にあると感じている。建築は、突然やってくる非日常の自然災害から人を守る使命を持ちつつ、一方日常の快適な生活を与える場であり、その双方を同時に満足しなければならない。時に相反する事象を解決しなければならないような場合も多い。JIA環境建築賞の「自然と共にある生活」というテーマには、建築が本来もっている”業”のような意味も当然含まれてくる。建築単体での実験的な取組みが、将来発展していき社会全体へ普及したときに環境規模で実現することまでも夢はつながる。取組みの方法は、思想的なことでも技術的なことでも良いのだが、それらのバランスも重要なのかもしれない。このような夢のある環境建築の出現を常に期待している。今年の応募案は、この期待に応えてくれるような作品も多く、全体的に作品のレベルは大変高かったが、住宅部門については優秀賞にとどまった。
 一般部門では、最優秀賞に「コープ共済プラザ」が審査員全員一致で選出された。まさに災害時と日常のオフィスプレースでの快適性の両方を追求した建築である。省エネを求めることは大切である一方、快適な室内環境を作り出すには多少の追加エネルギーと決断する“勇気”が必要になる。それを再生エネルギーによってまかなうことができれば建築は永続可能な健康体になるという論理である。
 この建築が持つ意匠性と共に、帰宅困難者への備えなど都市の幹線に面して建つ建築として将来へ繋がる作品である。一般部門の優秀賞には「株式会社日本の窓 十和田工場」が選ばれた。日本の森を育むことを願い故郷青森にて県産材を使い建てられており、10mスパンで丸太4本組の十字形の柱とトラス梁を使用した大胆な木造の架構形式の提案が素晴らしい。高い天井を生かしながら、この工場内で製作される木製窓も県産杉材を用いているなど建築と思想が徹底している。
 住宅部門では、審査員の投票によって同数票を得た「Nu-Ki house」「4+1 HOUSE」の2作品が優秀賞となった。「Nu-Ki house」は、内外装を漆喰で覆い、地元産材料を使用し高知の伝統構法を採り入れながら高品質の空間を作り上げている。ふつうの住宅地に建つ標準的な規模の住宅としてプロトタイプになる可能性をみた。「4+1 HOUSE」は、まさに周囲の水田と一体となったかのような空気感が漂う建築である。樹木が植えられた中庭を中心に家族が四季を楽しむ空間が創られた。高気密・高断熱をめざす環境建築の流れとは根本的に違う野心あふれる実験的なセルフビルド住宅である。この二つの住宅は共に地方で活躍するJIA会員としての今後の作品作りのあり方として好例になると感じた。
 「パッシブタウン第3期街区」においては、団地の再生手法や環境性能の高い質を有することに加え、建築主の環境に対する高い意識レベルと今回の建築を取り巻く環境づくりへの貢献も含め、審査員全員の総意として特別賞が与えられた。
 来年は環境建築賞第20回の節目に当たるため、20年の総括方法を考えている。

審査委員長 安田 幸一