第9回環境建築賞


 総評 審査委員長 野沢 正光
 

 今年度も多彩で密度の高い作品が多く寄せられた。求道学舎、黒松内中学校、さつき幼稚園など大胆な改修事例である。しかも今日的環境性能を確保することに成功しているものであったことを喜ぶ。こうした先駆的事例は今後のサステイナブルな社会の構築に必須なものと考える。
 環境要素技術の成熟した採用にも感心させられた。日産先進技術研究センターはそうした事例として既に注目されている事例である。ロキの自然光に拠るオフィス空間も面白い。また焼津信用金庫でのPC躯体、照明、空調を巧みに組み合わせた計画は先行する技術だけでなくオーソドックスな手法でさえ今日的な手法として有用であることを教えてくれる。また秋田の国際教養大学の地場産材の杉、地場の職人、地場の企業により作り出す高断熱高気密建築は地域建築家が地域を最大のテーマとして地域の宿題を手だてとして独創を作り出すことの意義、それが作り出す面白さを私たちに確認させてくれた。
 最優秀は建設後16年を経た建築に与えられた。こうした作品の応募は始めてであったが、建築の質の高さとともに周辺の緑と地形を維持し建築を穏やかに置くことがいかに質の高い場を作るかを再確認した。建物周囲に竣工時に植えられた樹木が大きく成長し影を落としていた。その姿に建築が歳月の作りだすものであることを思った。視察中窓の向こう、少し先の明るい丘に鹿が現われ、長くこちらをじっと見ていた。それほどの環境である。
 住宅作品はどれもそれぞれ特徴を持ち、レベルが高かった。結果現地審査作品のすべてが優秀賞となった。これも初めてのことである。住宅の質はその地域の技術者の技を含めた地域のストック、資源に依存する。場合に寄ればよきクライアントの存在も地域の資産といえるであろう。今回の作品が示す地域のもつ高いレベルの技術が良質のクライアントの存在により維持されることを祈りたい。
 JIA環境建築賞は今年で9回を数える。このなかでも年毎に少しずつではあるが主題の変化と展開が見られるように思う。先に記したが、今回は特に改修事例の多彩さに注目した。80年を経た躯体、特に特徴のあるものではない保存対象とは明らかにいえない躯体、ささやかで解体の負荷もそう大きいとは思えない木造躯体を計画の前提とすること、それを普通のこととして設計されたものに時間をつなぐ新しい建築の価値を見た。黒松内の梁のスリーブ跡の明らかにそれとわかる処理はこうした時間の表示であろう。環境建築賞というフィールドがそうした試みを発見し勇気付けるものであることを喜びたい。