JIA 25年賞・JIA 25年建築

JIA25年賞受賞作品 登録No.166

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慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
竣工時 撮影:©Toshiharu Kitajima
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
現況 撮影:©Keio University
 
設計者: 株式会社 槇総合計画事務所
建築主: 学校法人 慶應義塾
施工者: 東急建設・清水建設・大成建設・鹿島建設JV
安藤建設・大林組・錢高組JV
清水建設・大成建設JV
大林組・錢高組・日本国土開発JV
竹中工務店・三井建設・フジタ工業JV
戸田建設・鹿島建設・錢高組JV
大成建設、東京急行電鉄、東急建設
竣工年: 1990年3月
1991年3月
所在地: 藤沢市
講評:

 慶應大学湘南藤沢キャンパスは、1990年4月に、三田や日吉など既存のキャンパスとは異なる新しい構想に基づいて開校した真新しいキャンパスである。田園風景の広がる緩やかな丘陵地の31ヘクタールに及ぶ広大な敷地に、本館、講堂、講義室棟、研究棟、厚生棟など、延床面積4万㎡を超える建築群が建設された。計画時の航空写真を見ると、畑や林の間に集落が点在し、取り立てて特徴のない典型的な郊外の風景に過ぎない。しかし、現地審査に訪れて何よりも驚かされたのは、緩やかに建築群を取り囲んでループ状に外周をめぐるアプローチ路のごく自然なランドスケープと、敷地の約50%を占める緑地部分が、卒業生の寄付によって植樹されたという10万本の苗木が豊かな森に育って、キャンパス全体が公園のような成熟した環境になっていることだった。これは、与えられた敷地条件の読み取りと将来予測、目指すべき環境形成への配慮が的確だったことの現れだと思う。
 また、そうした景観の未来像と新設大学の発展と変化への適応性を見通した上で、むしろ厳格な直交座標系とグリッドに従った建物群の人工的な配置と、その間の視線の抜けとアイストップとしての緑地という対比的な扱い方も、心地よい内外空間の透明性の創出に貢献している。さらにそこには、厳しい建設予算の下で、コンクリート打放しやアルミスパンドレル、白いモザイクタイルなど、むしろ硬質な素材を用いながら、変わることのない空間の骨格を求めようとした設計意図が反映されているのだろう。ただ、そうして創り出された洗練されたクールな表情を持つキャンパスという環境が、ここで学ぶ学生たちの活動が蓄積された痕跡を記憶し、経年的な建物の成熟感を映し出すものになり得るのかについては、方法論として議論の余地が残されているようにも思えた。
 それでも、この開かれた公園のようなキャンパスは、紛れもなく、学生たちのみならず、周辺の住民にとっても、居心地の良い場所になっていることが、家族連れの姿をあちこちに見かけたことからも感じ取れた。そして、それは、竣工後の維持管理が、大学との深い信頼関係から着実に積み重ねられてきたことの証左だと思う。開学と竣工から26年、設計意図の確かさとそれを大切に維持して発展させようとする努力と愛情に敬意を表したい。

  (松隈 洋)