第15回日本建築家協会25年賞

■ 新宿三井ビルディング 講評

審査委員 山名 善之

 黒いアルミフレームと白い熱線反射ガラスで構成されたタワーが緑豊かな低層部との対比をなす新宿三井ビルディングは、日本における初期の超高層ビル建築のなかで最も成功した事例のひとつであり、第14回JIA25年賞を受賞した京王プラザホテル(日本設計、1971年)と共に、西新宿超高層ビル群のなかで質の高いエリアを形成している。
 設計体制は霞が関三井ビル(1968年)のチームをそのまま引き継いだもので、計画・設計には当時最先端であった霞が関ビルで取り組んだ技術がより洗練させて採用された。オフィスタワーを敷地北側に寄せて低層部の生活サポート空間をひとまとまりにしたことにより、都市的な活気を分散することなく超高層オフィスビルを都市空間に接合している。また、店舗群を中心広場や緑地に対して開放し賑わいを創出することにより、都市空間との結節点である超高層ビルの足もと周りをヒューマンな広場機能として憩いの場、語り合う場とすることに成功している。この緑地の植栽は大木と成り得るケヤキを中心とされたが、高層ビルの足元で高木を生育させる技術は、当時、未だ確立されておらず、多くの技術的挑戦であったらしい。この様な設計・計画面と技術面の挑戦が、この地域のメインタワーとなるべく計画当初に掲げられた「いきいきとしたヒューマンスペースの創造」を導いたといえる。
 このように時代の最先端を体現した建築デザインとして新宿三井ビルディングは1975年度日本建築学会賞作品賞を受賞し、当初からその作品性の観点から評価を得たが、さらに完成後も質の保持と時代の要請に合わせた質の向上に取り組んできたといえる。例えば、2000年から行われた大規模リニューアルにおいてはオフィスを稼動させながら4年4ヶ月の工期で工事を行い、また、2013年から2014年にかけてBCP改良工事、2015年の制震装置(超大型制震装置TMD)屋上設置工事によって事務所ビルとしての質の高さを保持している。このような設備更新の際に、高層部分における3層1ユニットの機械群を2ユニットまとめて実現した6層吹き抜けの機械スペースの立体配置が、工事手順の合理化に大いに有効となっている。その機械スペースの外殻をX字型の構造ブレースで押さえているが、それが高層部分側面の意匠として特徴にもなっている。
 今日の西新宿の品格あるオフィス・エリア形成に寄与しつづけることは、何よりも所有者、設計者、施工者、管理者の連携が現在もよく取れていることによるものである。また、過去の保全、改修の記録がアーカイブ化され、未来に向けた長期的な保全計画があることも評価に値する。加えて、竣工以来続いている「会社対抗のど自慢大会」、「ランチタイムコンサート」「フリーマーケット」などにより「55広場」と名づけられた公開空地が、つねにこの地域の賑わい・集いの中心であり続けていることが重要である。