第3回日本建築家協会25年賞
講 評

村尾成文

 今回のJIA25年賞は期間を延ばして追加推薦をしてもらったので結果的に審査対象作品が大巾に増加することになった。第二次審査にあたっては、まず、第一次審査の結果を参考にしながら書類による審査をおこない6点を選び出した。次いで、審査委員が分担して非公式の現地視察をおこない、その結果の検討を経て最終審査対象の2点へのしぼりこみをおこなった。現地視察をおこなったもののうち、埼玉県立博物館、私の家、日野市立中央図書館は内外空間の相互関係をはじめとして大変に興味深い作品であったが惜しくも最終審査対象からはずれることになった。最終現地審査をおこなったのは桜台コートビレジと代官山ヒルサイドテラス1・2期である。
 双方共よく知られている時代のリーディングプロジェクトであり、地域の環境に貢献し、1/4世紀をこえる風雪に耐えて美しく維持され、社会に対して建築の意義を語りかけているものである。現地審査では建築主(桜台コートビレジでは区分所有者の組織である管理組合の方)、設計者から様々な貴重なお話を伺い審査委員冥利につきる思いであり、双方共に賞をさしあげたい思いですらあった。
 桜台コートビレジは斜面地を活用した個性的な40戸の集合住宅である。3.6m×3.6m×6ユニットと広いテラスと斜面に沿ったセットバックを特徴としていて、限りなく戸建住宅に近い住戸と変化に富んだアプローチ空間と30年近く経過して豊かに成長した緑とによって極めて魅力的な生活環境と景観を構成している。可成りの入居者の交替があるにもかかわらずコミュニティ意識が高く、維持管理にも万全の努力が払われているのも特筆される。
 代官山ヒルサイドテラスの最大の魅力は何よりも審査対象の1・2期の計画がその後の1/4世紀6期にわたる街づくりの起爆剤になって、東京の山の手の閑静な屋敷町が巨大都市の成長に対応した形で新しいイメージの街に生まれ変わってゆくことになった街づくりへの拡がりの大きさである。緑に囲まれたモダニズム建築による道に沿った空間という都市の新しい景観は今も活き活きとしているし、下層部の商業系空間と上層部の居住系空間の各々に特徴ある構成は都市空間の在り方として現在も魅力的である。また、3層10mの軒線によるスケール感の統一、道につながる多様なパブリックスペース、歩道レベルにおける皮膜の透明性等は街の成長を記念して植えられていった欅の高木と共に代官山ヒルサイドテラス全体の基調になっている。住戸部分などで実質的に用途が変わってきている部分があるが、背後の緑の外部空間との対応をふくめた空間の魅力が持続しているのも素晴らしい。
  当該の1・2期部分及び3期部分がある旧山手通り南側の敷地は敷地を分割せずに全体をひとつの敷地として計画することによってより良い計画が可能になることが指向されている。総合的な一団地設計の特認手法によっているが、2期、3期と計画がすすむ度にこの内容の修正を繰り返すといった官民双方の努力がされてきたのも特筆すべきことである。また、よく知られていることであるが建築主と建築家の信頼関係は絶大なものがあり、長い年月にわたって協力して街づくりに貢献してきた例としても特筆される。このように代官山ヒルサイドテラスは多くの評価すべき面をもっているが、特に街づくりへの拡がりの大きさは多大なものがあり、本年のJIA25年賞作品として一点を選び出すとすれば最も相応しいものであると考えられる。