第3回日本建築家協会25年賞
講 評

林 昌二

 さまざまな事情から、充分な数の候補作品が集まりにくかったため曲折を経ましたが、ようやく新たな候補作品が決まり、今回の審査がスタートしました。
 候補作品の中から、竣工年次や設計者の立場について疑念のあるものを除き、残りの中から数点を選び出し、手分けをして現地視察を行いました。但し先方への配慮から、この段階の視察は非公式に行いました。
 視察の結果、残念だったのは、官公庁の発注になる、いわゆる公共建築のメンテナンスに問題があることでした。いずれも名作の誉れ高い建築なのに、タイルが欠け、或いは錆びた鉄筋が露出して、そのまま放置されてるのを目にしました。かくて寿命が縮まり、無駄な建て替えに至るのだと知ります。官公庁の建築では、その気さえあれば充分目が届く筈なのに、縦割り行政の常として、見える欠点が目に入らず、或いは予算化や手配の面倒を厭うためでしょうか。自分の資産に真剣な民間では考えられないことです。なんとか、現場で具体的な手当てができる体制を作ってほしいものです。
 ところで小生、かねてこの賞の対象が大型建築物に偏りがちで、住宅が候補にさえ上らないことを不満に思っていましたところ、今回、林寛治さんの「私の家」が推薦されてきたので、わが意を得て訪問させて頂きました。果して対象の住宅自体は素敵な作品だったのですが、近年隣接して増築された事務所部分との関係に、一同首を傾げる結果となったのは残念でした。
 結局、選考の最終段階は「桜台コートビレジ」と「代官山ヒルサイドテラス」の2点に絞られました。偶然、両者とも集合住宅です。全員で両者を訪問し、居住者の同意を頂いて内部まで見せて頂き、また関係者から事情をお聞きして、一点に絞ることになりました。
 「桜台コートビレジ」は、だいぶ以前に分譲されて区分所有に変わったそうですから、維持管理に困難がありそうに想像したのですが、利用者が数年で入れ替わるという現実にも関わらず、維持管理上の難点を立派な組合運営によって克服し、良好なメンテナンスが行われているのは見事でした。そればかりか、敷地内の緑は豊かになり、配管、外装なども更新されて、新築当初よりも良好な状態になっているのでした。集合住宅の模範例と言っても良さそうな状態です。あえて難点を挙げれば、竣工当時は先進的事例として実施された集中暖房や高温水配管が撤去されて、個別空調とガス配管に置き換えられたため、貴重なバルコニーに室外機を置かざるをえなくなった点があります。原因は社会環境の変化にあるので、建築は受け身で対処せざるをえない問題ではあります。
 「代官山ヒルサイドテラス」は「桜台」と違って純粋の集合住宅ではなく、次第にオフィスユースの部分が増えている気配でしたが、土地所有者と建築家との息を合わせた長年のこころざしによって、一建築プロジェクトが、周辺地域に影響を及ぼし続け、新たな街づくりに発展していることが確かめられました。長期にわたるプロジェクトでは、この賞のルールである「25年目」が、どの部分に該当するかを特定するのが難事ですが、そんなことより、街づくりに貢献している現実の方を積極的に評価しようということで意見が一致しました。
 最後に、今後のために、再度の審査を経験しての小生の感想を3点。
1.どんな賞でも、賞にとってはオリジナリティが生命だが、25年のうちには、候補に値するほどの建築は、既に何らかの賞を受けているので、この賞の独自性を出すのが難しい。
2.25年という時間は、住宅などについては適当な時間でも、宗教建築物や公共施設では、短かすぎる。50年でもよいくらい。
3.審査に当って関係者をお騒がせするのは恐縮なことだが、これは、どんな賞にも共通することで、賞の名声によってカバーしてゆくほかない。そのような賞になれるかどうかが問われる。