■ ISO

  JIA News 1999年6月号より
建築設計事務所とISO9000

飯田 喜一郎

1 建設分野におけるISO9000Sの普及状況
 建設省では平成8年度に「平成12年度(2000年度)以降、一定の範囲の工事におけるISO9000シリーズの適用を視野に入れて、公共工事への適用方法を検討する」と公表し、ISO9000シリーズ(S) 適用パイロット事業の実施を通じて、公共工事への適用方法等について検討を行なってきました。
 平成10年度には、パイロット工事の効果・課題の把握調査も行い、発注者・受注者が一体となった効率的な運用のための事業執行のあり方を検討しています。
 こうした背景があって、建設業界では、ISO9000Sについて第三者機関の審査、登録を受けていないと公共工事への参加の機会を失うのではないかとの危機感が募り、幾分過熱気味ともいえる取り組み状況になったものと思われます。(財)日本適合性認定協会(JAB) の調べによれば、98年12月末現在における各審査登録機関での全登録件数は8,736件で、そのうち建設の登録件数は777件に達しました(8.9%)。現在では、大手ゼネコンと中堅ゼネコンはほぼ登録済みで、地方のゼネコンが登録に向けて動いています。また、ゼネコンと取引関係のある材料メーカーや専門工事業にも登録の動きが波及してきました。

2 建築設計事務所の動き
 建築設計事務所は1997年11月に日建設計東京本社が登録されたのを皮切りに、1999年3月末までに合計8社が登録されています。このうち日本建築センターでは松田平田本社、山下設計本社、久米設計本社・6支社・1事務所、東建築設計事務所本社、マルタ設計本社・3支所の計5社を登録しており、この他3月末現在で10社からご申請をいただき審査を行なっています。なお、登録された8社のうち3社は中小規模の建築設計事務所であることが特徴的です。
当初、「ISOの導入は創造性や独創性を損なうことにならないか」と危惧する人もいましたが、むしろ、ISOの導入によって業務の平準化や効率化を進め、設計品質の向上を図るとともに創造性を発揮するために時間を費やすことができると聞いています。
 現在、建設業界は大変厳しい環境にさらされています。建築設計事務所においても、いかに経営体質の改善を図り、競争に勝ち抜くかが求められています。ISOに取り組むにあたっては、多くの時間と費用を掛けるわけですから、構築されたシステムが経営基盤の強化にも役立つものにしたいものです。

3 審査登録までの準備
 ISO9001の審査は、大きく分けると書類審査と実地審査があります。書類審査は品質マニュアルや規程・要領などがISO規格の要求事項に合っているかどうかを審査するもので、実地審査というのは、品質マニュアルや規程・要領などで書かれた仕組みが、運用(実施) されているかどうかを審査するものです。従って、ISO9001の審査の準備にあたっては、「システムを構築する」(品質・マニュアルや規程・要領などを整備する)ことと「システムを運用する」ことの二つが必要になります。
(1)システムを構築する
 ISO9001では組織の実状にあった品質システムを構築することを求めています。すなわち、マニュアル、規程類の内容と実務とが整合していることが大切です。
 審査登録を急ぐあまりに実体から離れたシステムを構築すると、後々大変な苦労をすることになります。従って、最初は多少時間がかかっても、自社の業務の流れをよく整理して、組織の実状にあった品質システムを構築することが大切になります。
 1) 品質方針をたてる。
 執行責任をもつ経営者は品質方針をたてる必要があります。その品質方針はすべての階層によって理解され、実行され、維持されることが必要です。また、経営者の品質方針を受けて、各部門毎(あるいはプロジェクト毎)に品質目標をたてます。品質方針や品質目標が理解され、それぞれの立場で実行されていることがポイントになります。
  2) 品質システムを確立し、文書化し、維持する。
 品質システムとは、品質管理を実施するための組織構造、手順(プロセス)、経営資源などをいい、物事がどのように行なわれているかを文書化し、その結果を記録に残すことが必要です。各企業では規模の大小を問わず、既に確立した事業のやり方(仕組み) をもっていますが、多くの場合これらの仕組みは文書化されていないのが普通です。ISOでは、いたるところで文書化を求めていますが、文書化の程度はマニュアルと帳票だけでもよい場合があります。コミュニケーションの程度にもよりますが、仕事がバラつかない程度に文書化されていれば良いと思います。さて、品質システムの確立にあたっては、業務の流れを整理することが大切です。
 審査登録された企業の中には、業務の流れを品質保証体系図などにまとめている企業もあります。ここで大切なのは各業務のIN PUTとOUT PUTを明確にすることです。IN PUTとは、業務を実施するにあたっての必要な情報だと思えば良いでしょう。情報の中には顧客の要求事項、法的要求事項、社会的要求事項など様々なものがあります。また、OUT PUTとは、業務の成果物であり、次の業務のIN PUT情報だと思えば良いでしょう。
 業務の流れを整理したら、次に各業務の責任と権限を明確にする必要があります。
 業務のポイントになるところでは、責任者が承認するまで、次の工程へ進まないようにする(ホールドポイントを定める)といったことも必要です。
 なお、大多数の企業では規格が規定する活動の多くは、既に実施しているものと思われます。そこで、社内にはどのような文書や様式が存在しているのかを洗い出してみましょう。多くの場合、若干の修正を行なうことによって、現在の仕事のやり方で規格の要求事項を満足する水準にまで押し上げることができると思われます。
(2) システムを運用する
 1) 構築したシステムを運用する。(PDCAをまわす。)
 実地審査では、これから何が起こるのか、どうしようとしているのか、をみたいのではありません。起こった事柄、実施の状況を確認したいのです。それには十分な証拠=記録が必要になります。ISOの審査では記録の確認が中心になります。
 なお、申請者の中には、文書と記録を混同している例が、多々見受けられます。
 記録は何らかの活動の結果として作成されるもの、言い換えれば、その時点で存在した事実を述べたもので、文書のように改訂するということはできません。
 一方、文書は本質的にはどのように物事を行なうかを記述又は管理するために用いられるもので、状況の変化を反映して改訂することができるものです。
 (例:チェックリストの様式は文書ですが、チェックした結果を書き込んだものは、記録になります。)
 2) 内部品質監査を実施する。
 ISOの特長の1つに内部品質監査があります。
 内部品質監査の実施に先立ち、内部品質監査員を養成する必要があります。
 内部品質監査員は、自社で養成してもかまいませんが、適当な講師がいない場合は、審査員研修機関で内部品質監査員の養成セミナーも開催していますので、何人かは受講することをお勧めします。
 さて、内部品質監査では、決めたことが決めた通りにできているかを監査します。
 監査で問題点(不適合)が発見されたら、
1.原因を調査し、その原因を取り除く。
2.他部門にも同様な問題が存在しないか水平展開を図る。
3.その上で、再発防止策をたてる。
といった適切な是正処置をとることが必要です。
 往々にして、不適合の処置だけで終わって、上記のような是正処置をとっていない例がよく見受けられます。
3) 経営者による見直しを実施する。
 経営者による見直しとは、経営者自らが品質システムの運用状況や有効性をチェックすることです。日常業務の報告や内部品質監査の結果等を踏まえて、定期的に見直しを実施する必要があります。
 ISOの審査登録はゴールではなく、スタートラインに立ったということです。内部品質監査や経営者による見直しを通して、効果的にブラッシュアップを図り、品質の向上、業務の改善、経営の合理化に役立てて頂きたいと思います。

いいだ きいちろう
財団法人日本建築センター システム審査部長