■ 建築家資格制度の動き 閉じる

JIAと日本建築士会連合会との2団体基本合意書の背景と意義

JIA副会長 河野 進


 11月1日、芝 建築会館において「新たな建築資格制度創設に向けての2団体基本合意書」がJIA大宇根弘司会長と日本建築士会連合会宮本忠長会長により調印されました。
今回の2団体合意書が出来るまでの経緯については、合意書の前半で述べられている通りです。JIAは前身の(旧)建築家協会以来、昭和25年に制定された現行建築士法が、戦災復興を急ぐ為の建築技術者の大量育成という社会的要請のもとに作られた技術者法であり、業務規定や倫理規定を備えた諸外国の建築家職能法と比較すると、極めて不十分なものであることを指摘してきました。また学校教育の年限不足や実務訓練の内容・時間数の不足など、国際基準であるUIAの基準と比較しても不十分な点が多い事、さらに一級建築士資格者のうち実際に設計監理を業務として行っている者が2割に満たず、構造・設備のエンジニアや施工、行政など多様な業務領域の資格となっている事が依頼主からみて分かり難く、消費者保護の観点から見ても至急見直すべき事を主張して来ました。そしてそれらを改革する具体的提案として、UIA基準と同等性の有る「新建築家資格制度」を公表し、その試行を行ってきました。
先般日本建築士会連合会が、当面社会的制度として立ち上げることを提案をした「専攻建築士制度」は、JIAがこれまで指摘してきた建築士法の問題点を改善し補うものとして評価しうる提案だと考えています。ポイントは2つあります。第1は現行の一級・二級・木造建築士資格を基礎的資格と位置づけ、不十分な部分を実務経験と継続研修(CPD)を一定年限以上義務付ける事で補い、専門資格者として認定し直すと言う点です。第2は多様な業務領域を包含する為に分かり難かった建築士資格を、設計監理を行う統括専攻建築士、その他構造、設備、生産、行政、木造と全体を6つの専攻建築士に切り分け、各々実務経験とCPDプログラムの履修を義務付ける認定基準を設けようとするものです。
前者はJIA近畿支部や静岡地域会が現在試行している自主認定の「建築家資格制度」で、現行の一級建築士資格に実務経験年数と作品のポートフォリオを加えて認定審査を行っているやり方と基本的に類似のシステムと考えて良いと思います。後者は統括建築士を設け、設計監理を行う者を消費者から見て分かりやすくすると言う事以外にも、これまでJIAが「建築家」以外の建築に関わる多様な資格者、とりわけ重要なパートナーである構造や設備の技術者資格について殆ど言及して来なかった事に比べ、建築に関わる多様な領域の資格者のトータルな提案となっており、その意味で優れた提案であると思います。 
今回の2団体合意書が「新たな建築資格」となっており「新たな建築家資格」となっていないのもその意味です。これまでJIAの建築家資格制度提案に対しては、反対していた建築業協会(BCS)や工務店なども、専攻建築士制度のなかで建築生産分野や木造分野などが、それぞれ明確に位置付けがされた事で、基本的にこの制度に賛成しています。
今回の2団体合意書は、国内外の建築資格をめぐる現状認識と建築資格制度の目指すべき方向について合意が成立したと言う事であり、これから先JIAとしては、当面の暫定措置(中短期)として近畿・静岡で試行した自主認定資格制度の総括を踏まえ、実務経験年数やCPDの中味などUIA基準と同等性を担保できる認定基準を再調整の上、全国レベルの試行も視野に入れながら、他団体にも再提案し、すり合わせる必要があります。また両会で合意した「第三者認定機関」についても、委員の構成など、より具体的な提案を纏める必要があります。更に長期的な課題として挙げている建築士法制度や教育制度の抜本的改革についても、UIA基準に準拠する「建築家資格」の確立に向けて、建築学会など他団体とも協調しながら〈建築設計資格制度調査会〉の場でも積極的に働きかけていく必要があります。
いずれにしても今回の2団体合意は、従来の官主導の資格論議を脱し、民間の2団体が自主的かつ主体的に具体的な改革の方向に向かって合意したと言う点で画期的な事だと思います。また今後の各地域における両会の協議、協調を進める重要な出発点になると思います。

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