■ 建築家資格制度の経緯 閉じる

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意義ある建築家資格制度確立のために思うこと

河越 忠志
かわごえ ただし
TAKE河越建築環境
工房総合事務所
近畿支部・兵庫県

 建築家資格制度について、未だにその法制化の方向さえ伝わってこないことを末端の建築家として残念に思っています。また、我々建築設計監理技術者のポジション及び建設業者等からの独立性等倫理面について、一般市民から関係行政担当者に至るまで殆ど認識されていないことは更に憂うべきことであると思っています。この現実はひとえに現行建築士法並びに関係法令が整備されていないことに起因しているものと考えられます。そして、建築家資格制度の法制化が進展しないことの原因が「設計者・工事監理者」のポジションに関する関係諸団体の認識または利害の相違にあると考えています。
今、建築設計監理技術者の国際化対応を目指すとすれば直接建築家資格ではなく、上級建築設計監理技術者資格制度を確立させ、その上で技術者のポジション等の他要件を満たす者に対して建築家登録資格を与えるような制度を目指すべきだと考えます。すなわち、法曹界であれば司法修習生としての修習を終えた者が裁判官、検察官、弁護士となる資格を得るのと同様の万能資格を与え、次の段階で「建築家」登録をするか或いは「(仮称)上級建築設計監理技士」というような(以下「設計監理技士」という)資格者として登録するかは有資格者個人のポジション等により区分する方法が望ましいと考えます。この方式は裁判官或いは検察官を退職し、弁護士登録できるのと同様に建設業者内有資格者が退職すれば他要件に反しない限り建築家登録が可能となり、国民に開かれた資格制度となり得るものと考えます。一方、建設業者内有資格者もその技術力を広く、公示できる点で、充分意義あるものと考えます。
独立性と倫理性を兼ね備えた有資格者だけが「建築家」登録或いは「設計監理技士」登録を選択できるものとし、その他の有資格者には「設計監理技士」登録資格を与えるような資格制度を望んでいます。勿論、この場合にも「建築家」登録の全要件は詳細に検討される必要があります。そして、このような形態でも調整できないようであれば、建築家理念を曲げてまで法律整備をしないことを望みます。この場合、建築設計監理技術者としての単なる国際化のための資格制度の法制化を容認し、その上でJIA本部の建築家自主認定制度をスタートさせることも選択肢の一つではないかと考えます。
何れにしても建築家資格制度は、より一般市民に近い或いは市民の中に埋もれた我々末端の建築家が建築家職能理念に基づいた専門家活動をするためにこそ必要だと考えています。また、実際に公共施設だけでなく、多くの民間施設に関する設計監理業務においても、その担当技術者の能力だけでなく倫理面が問われる業務委任が行われているため、「建築家」としての認定登録並びに登録更新制度により技術者個人の能力並びに倫理性を維持することが必要であり、その制度が一般社会に向かっての業務保証に繋がるものと考えます。
民事、刑事を問わず訴訟事件であれば原告と被告、検事と被告人が対立し、裁判官はそれぞれに対して中立である必要があります。そのため民事訴訟法及び刑事訴訟法には「除訴」及び「忌避」の制度があり、一定要件に該当する裁判官を訴訟事件からしりぞけることにより、不公平な裁判が行なわれないよう配慮されています。
一方、多くの建築等は建築主と建設業者との工事請負契約により施工されています。その過程において我々建築家の求められるスタンスは不動であると考えます。当然、基本的には建築主の弁護人であり、建築設計監理業務の内容も多種になるため、各段階の業務により時には裁判官、時には検察官になることはあっても少なくともメーカー等を含む建設業者側に傾いたスタンスが正常なはずはありません。
従って、現在建築士法に基づき建築設計監理業務に携わる多くの技術者すべてに「建築家」としての資格を適用することは不適切であり、逆に業務ポジションを理由に資格者の適用範囲を狭めることも技術者としての社会的評価レベルを下げることに繋がるものと考えます。そのため建築設計監理能力のみを問う上級建築設計監理技術者資格制度を法制化し、その一角に建築家資格制度が位置付けられることを望みます。例えば弁護士、司法書士、行政書士、税理士、土地家屋調査士等が各法令により業務を法人化できないことや、雇用されて業務を行なうことができないように「建築家」も個人の責任において業務の遂行可能な立場であることが必要です。何れにしても、倫理感を持って建築設計監理業務を行なっていける技術者に社会的発言力を与えることが、21世紀の「まち」、「すまい」を輝かせることに繋がるものと思っています。
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