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技術編 「免震シリーズ」

  
   「免震住宅の計画」 第1回 「集合住宅の計画」
 
 

「免震住宅の計画」 連載にあたって−−−

 1975年免震装置(積層ゴム)の開発、1983年免震建築第一号「八千代台免震住宅」の完成と免震建築が世に出て20年余りになります。
その間に、研究所、病院、電算センター、事務所等の業務施設を中心に免震構造が採用されてきましたが、1995年の阪神・淡路大震災以降、多くの免震集合住宅や戸建免震住宅が建設されました。
 これは住宅の供給者が物件の差別化を図り、購買力を高めた結果という見方もありますが需要者にも地震に対してより安全な建物を求めている現われと考えられます。ただ、時間の経過とともに地震に対する意識も薄れ、免震住宅よりもシステムキッチンを選ぶ需要者が多いのも事実であり、免震構造の採用が一般化したわけではありません。
 なにか安全性の確保という目的だけでなく、構造の制約を極力少なくし、自由に設計できる免震構造のメリットを生かした建物の実現こそが更なる普及につながると考えています。
今回の免震住宅の計画では「集合住宅の計画」「戸建住宅の計画」「免震化へのリニューアル」[これからの免震建築]のテーマで4回に分けて連載し、免震構造の特徴を一層理解して頂きたいと考えています。

社団法人日本免震構造協会
建築計画委員会 委員長 石原直次


集合住宅の計画

社団法人日本免震構造協会 建築計画委員会委員 小林 幹生


図ー1
1.免震構造の定義
 建築物の基礎と上部構造の間(基礎免震)または、下部構造と上部構造の間(中間免震)に免震装置(アイソレ−ター、ダンパー、すべり支承など)を設けて上部構造の固有周期を延長・減衰を増加させて、地震動に対する建築物の応答を低減する構造。

2.集合住宅に免震構造を採用するメリット
@地震災害から人と建物を守る(図-1)
・免震構造の建物は免震装置の変形により地震のエネルギーを吸収し、建物への地震力を1/3〜1/5に低減できるもので、地震時に建物本体とその機能を守り、人の命と財産を守る。
・サッシや玄関ドア、配線・配管などの二次部材の破損を抑えられ、家具、什器およびその内容物や設備機器などの転倒、落下による二次被害もおさえ、安全な避難も確保することができます。
Aスリムで高耐久の構造躯体(図-2)
・柱や梁などが従来に較べサイズが小さくなり居住性が向上する。
・地震時の変形が少ないために躯体やカーテンウォールや間仕切りなどの非構造部材に対してもダメージが少なく高耐久の建物となる。
・非構造部材のジョイント部が簡便となる。(カーテンウォールの取り付けと目地など)
B設計自由度の増大
・躯体がスリムで間取りや内装・設備に対して柱や梁などの制約が少なく空間設計の自由度が増大するため、高耐久のスケルトン(「S」、構造・インフラ設備)と自由に構成できるフレキシブルなインフィル(「I」、間仕切り・内装・設備)で構成されるSI集合住宅に最適となる。
・上記の積層ゴムに上下方向に利く制震ダンパー(バッファ)を併用し防振効果を更に向上させることも可能。

3.集合住宅と免震構造の相性
集まり住む集合住宅の最大のメリットは、土地や建築の空間や機能を共用できるところにある。共用する住戸が多ければ多いほど経済効果があり、1軒当たりの建設コストや管理・運営コストの負担が少なくなる。
免震装置も構造躯体の一部で、区分所有法では共用部分にあたるので、共用する住戸が多ければ多いほど一住戸当たりの負担が少なくなり経済的となる。住戸を高く積み上げれば上げるほど効果が増すと思われるが、後述する構造的な合理性や建築関連法規の規制などで経済的な建物の高さにはある程度の限度があり、一般的には、低層住棟より中層住棟、中層住棟よりは10階前後から15階程度の高層住棟が適していると言える。

4.地盤との相性
 免震構造に適している地盤は、第1種地盤(卓越した地盤の固有周期0.2秒以下)と第2種地盤(同周期0.2〜0.75秒)で液状化の恐れのないもので、第3種地盤(0.75秒以上)のような軟弱地盤や液状化し易い地盤には一般的には適さない、しかし、制震装置との組み合わせや地盤改良、杭の補強などでコストは、かかるが技術的には可能な場合もある。

5.免震集合住宅の構造合理性
@ねじれの少ない建物形状(図-3)
 地震時や強風時にねじれの少ない建物形状が免震構造には適している、平面形状でも立面形状でも、形の整った矩形が望ましく、集合住宅に多い。
 I字型平面の板状住棟は適している。
 また、塔状の住棟も平面形が円や正方形に近い点対称の形が望ましい。
 平面形が細長い建物では、端部の免震装置の水平変位が大きくなるので注意が必要となる。
 免震構造の特性として、上部構造の耐震要素が偏在していても、大地震時に剛心位置が一般耐震構造のように大きく移動しないため、上部構造の設計の自由度が増大する。
 平面形がL字型や雁行型等の不整型のものや立面形でも不整型でセットバック等しているものは、その程度にもよるが、免震装置の硬さや大きさを位置により変化させる方法や、エキスパンションジョイントにより分棟化するなどの配慮が必要となる。
A適切なアスペクト比
 (建物の高さと奥行き寸法の比率)
 (図-4)
 一般的な免震装置は「圧縮」には強いが「引っ張り」には弱いため、建物形状は、倒れにくい安定した形態ほど有利となる。建物の高さとその奥行き(短辺)寸法のおおよその比率(アスペクト比)は3:1以下、すなわち、断面形状で建物の高さが建物の短い幅の約3倍以下がおおよその目安となる。一般的なI字型の平面形をした住棟の奥行き寸法は、12M〜15M程度なので高さは、36M〜45M以下で、約11階〜14階以下相当が適当となる。
 アスペクト比の高い建物は、低層部を張り出したり、高層部をセットバックさせるなど転倒モーメントを小さくする調整をすれば免震適用に対し比較的有利な構成となる(図-5)。また、「引っ張り」に強い制震装置などを併用すれば高い建物に対処可能となる。
B免震装置の配置
 免震装置を効果的に配置するためには自動車のタイヤのように、ホイルベースやトレッドをなるべく大きくとり、安定した状態にして、免震装置の設置数も、タイヤの本数と同じように必要最小限に抑える構成が望ましい。そのため、棟形や平面形などの基本構成と柱位置などの構造架構の充分な検討が必要である。
 集合住宅では、間口が狭く奥行きの長い住戸が構造壁を挟み連続する板状の住棟が多く、建物の安定を図るため、柱の位置(免震装置の位置と同じ場合が多い)を建物の短手方向のなるべく両端に配置する。そのため、免震集合住宅の実施例では、柱がバルコニーの先端部に配置されることも多い、更に、その柱列を結ぶ大梁を逆梁構成にすると開口部上部の大梁による高さの制約から開放され2.2M〜2.5M程度の高い開口部(ハイサッシ)構成例も最近は多くなった。(図-6)
 従来、中高層板状住棟では、一般的には、柱の列が3列であったが、免震構造を採用することにより柱の列を2列として、免震装置の個数を合理的に減らすとともに、住戸内に出る柱型や梁型を少なくしてプランの自由性を増すことも可能となる(図-7)。
 また、経済的な構成とするため、免震装置として「アイソレ−ター」や「ダンパー」の数を最小限にし、比較的廉価な「すべり支承」を併用することが可能となる場合もある。(建物から部分的に張り出ている階段部や中低層建物に適用)

6.免震集合住宅の留意事項
(1)変位に対する配慮
@建物全周に免震による最大の変位量を考慮したクリアランススペースを確保。(約60cm、条件により数値が異なる)
A基礎免震の場合、敷地境界から建物の離れを@のクリアランススペース外側の躯体の施工も考慮して確保する。(中間免震の場合@のみ考慮)
B建物まわりの可動部に人や車などが寄り付かないよう対策をする。
C建物まわりの出入り口通路部にエキスパンションジョイントが必要。手摺等の部品にも伸縮対応の配慮が必要となる。(相対変形対策)
D別建物との連結通路部に別建物の変位量と免震建物の変位量を加えたエキスパンションジョイントが必要。(相対変形対策―双方変形)
E設備配管・配線類の可動部に変位量を考慮したフレキシブルジョイントなどが必要。(縦シャフトや雨どいの処理も注意)
Fエレベータシャフトは一般的には、免震層で分断せず、上部躯体と一体の構造とする。(免震層以下の部分は、上部躯体から吊る構成とする)
G階段が免震層を通過する場合、変位量の幅を加えた幅員とし非難安全性を確保する。
(2) 区画に対する配慮
@基礎部分に免震装置が位置する、「基礎免震」の場合、免震装置が位置するスペースは、もっぱら管理・維持・更新のためのスペースとする。この場合、免震装置に対して耐火区画(耐火被覆)は必要ない。
A@の場合で、免震装置の位置するピット内に倉庫や駐車場、駐輪場、居室などの用途が発生する場合、免震装置とその他の部分に対し耐火区画の必要が生じる。一般的には免震装置部分に変位を考慮した耐火被覆を行う。
B1階以上の階に免震装置が位置する「中間免震」で、免震装置部分が駐車場、その他の用途の生じる部屋内の柱などに位置する場合、免震装置部分に変位を考慮した耐火被覆が必要となる。また、変位により部屋の機能が損なわれない配慮も必要となる。
(3)維持・管理(表-1)
@免震装置の維持・管理が必要
 震装置の種類や許認可の条件により異なるが、一般的なアイソレーターの場合での、標準的な点検の種別と実施の時期は、目的に合わせて次のように分類されます。なお、定期点検などは、竣工時検査が基準になりますので必ずこの検査記録は残しておきます。建物の竣工時検査は、専門技術者により各部材の形状など初期状況を記録しておきます。(全数検査を原則とする)
・定期点検
 定期点検は、簡単な目視検査で建物周囲や免震部材を見回り、異常の早期発見とトラブルの防止をはかる点検と、期間を決めて、目視だけでは確認しにくい機能的な異常や耐久性に関わる項目を詳細に点検調査する点検があります。前者は毎年実施します。後者は、抜き取り検査を標準として、竣工後5年、10年、以後10年毎に実施します。この際、積層ゴムの性能測定のために「別置き試験体」が用意されている場合は、これらを測定機関(製造メーカー等)に持ち込み計測します。
・応急点検
 応急点検は、大地震、台風、冠水、火災などが発生した直後に実施します。本来は、詳細な点検が必要ですが、災害後はすぐに対応できない場合が多いので、取りあえず、簡易な目視点検を主体にした応急点検を実施し、問題点を迅速に把握した後に、必要に応じて次項の詳細点検を計画します。
・詳細点検
 応急点検、または、定期点検で異常が認められた場合に実施します。異常項目を重点的に点検しますが、内容は定期点検と同程度です。
 なお、点検する部位と管理の仕方については一般に表-1のようになります。
・耐用年限・・・・アイソレーター(免震ゴム)の場合おおよそ60年
A@に伴って入居者の管理費負担が生ずる
・分譲マンション200戸規模程度の場合管理費約300円〜500円/月・戸
B免震装置の保守点検・取り替えのための搬出入口と点検スペースが必要。
・ドライエリア(幅約2M)またはマシンハッチ(約2M×2M)など点検時や更新時の配慮が必要となる。
・点検スペース高さは、有効1.2M以上で搬入口より台車により免震装置を運搬可能とする。
(4)その他の計画上の配慮
@装置が周辺地盤より低い位置に配置される場合、エキスパンション部の止水および、免震ピット部の排水を考慮のこと。(排水ピットと排水ポンプ、側溝、連通管、水勾配、止水対策等)
A免震層を通過する設備配線・配管は、なるべくまとめて施設し、フレキシブル処理の個所数を少なく合理的・経済的な構成とする。
B高電圧線の配線・配管(特高など)の場合は、ループ状に曲げる曲率半径の確保およびプルボックスと支持金物の補強が必要となる。
C可動部との分離層部はなるべく同一平面上に位置させる計画とし、段差がある場合、立体的に変位を考慮する必要がある。
Dエキスパンションジョイントや手摺は、通常時および変位時とも安全な通行が確保できる構成とし、墜落の可能性のある隙間を作らない、手や指が挟まらないなど安全性の配慮が必要。
・手摺は、床から650mm以下に足掛かりができないよう、また、手摺の格子のあきが120mm以上にならないよう配慮する(墜落防止対策)
・エキスパンションジョイント部床の段差対策(バリアフリー対策)が必要。その場合原則として段差ゼロであるが、建物用途や部位により段差3mm、20mmなどの基準があり、行政指導を受ける必要がある。
(5)工事上・コスト上の留意点
@基礎免震では上部構造より下にそれより大きな免震層が必要となり、根切り量や躯体数量が増え、工期も増える可能性がある。
A建物外周部の仮設足場位置やその施設方法も変位を考慮。
B工事中の可動部の仮設部材も変位を考慮して安全通行が可能とする。
C見積時、免震装置だけでなく、その被覆やエキスパンションジョイントや設備のフレキシブルジョイントなどや工事費に含まれる点検料の検討も充分行う。
(6)許認可関係
@構造計算ルート(図-8)
1)旧建築基準法38条による免震(建築物に関する一般認定)
  応答スペクトル法、実績ある免震部材メーカーの部材
 「JSSI免震建築物」(有効期限2002年5月31日まで)
2)免震建築物に関する告示(建築主事の建築確認設計法)
  応答スペクトル法、指定建築材料による大臣認定部材
3)指定評価機関による評価書(大臣認定得)
  時刻歴応答解析法、指定建築材料による大臣認定部材
A許認可上では、一般的な限界耐力法ではなく高度な構造解析(時刻歴応答解析など)が必要となるものは指定性能評価機関の「性能評価書」取得と国土交通省の「大臣認定」の取得が必要(評定から大臣認定まで3〜4ヶ月かかり、一般の確認申請+約2ヶ月以上必要)。(図-9)
B設計住宅性能評価書を取得する場合、一部の場合(高度な構造解析が必要となるものなど)は「特別評価方法認定書」取得が必要となり、指定住宅性能評価機関にて審査を受け、国土交通省の大臣認定を取得する。(表-2)

質問
1.集合住宅に免震構造を採用するメリットを3つ以上挙げてください。
2.免震構造に適している地盤は、一般的には何種地盤ですか。
3.免震構造を採用する際、適切な建物のアスペクト比(建物高さと奥行きの比)の一般的な上限の目安は、いくつですか。
4.免震ピット内に、駐車場等の用途が発生する場合、免震装置に対して必要な処置は何ですか。
5.免震装置に対して必要な3種類の点検項目とその頻度を述べてください。

回答
1.@地震力を低減して建物内の人の安全を守ります。
A地震力を低減して建物本体を守ります
B地震時の二次部材(サッシ、間仕切り、設備機器、配線・配管、什器)の破損を抑えます
C構造躯体(柱、梁など)がスリムに計画でき、設計の自由度が増大する。
D非構造部材のジョイント部が簡便となる。
E集合住宅では免震によるイニシャルコストとランニングコスト増がともに住戸割負担となるため高層の大型の住棟では採用が有利となる
2.免震構造が適している地盤は第1種地盤と第2種地盤で液状化の恐れのないもの。
3.建物高さと奥行き(短辺)の比(アスペクト比)の上限の目安は、3:1程度
4.免震装置とその他の部分を耐火区画する必要がある、アイソレーターの場合、変位を考慮した耐火被覆をアイソレーターの周囲に設置する。
5.免震装置の種類や許認可の条件により異なるが、一般的なアイソレーターの場合での、標準的な点検
・定期点検・・・・・竣工5年後、10年後、以後10年毎
・応急点検・・・・・大地震時、強風、水害、火災の直後  
・詳細点検・・・・・定期点検で異常が認められた場合、応急点検後必要に応じて行う。

JIA News 2002年08月号より



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