
建築から学ぶこと
2500円+税
この本は、安井建築設計事務所のウェブサイトに毎週連載している「建築から学ぶこと」
(http://www.yasui-archi.co.jp/yasui/index.html)を基にしている。あくまで建築をめぐる考察から離れないようにしながら、私が日々おもしろがり、刺激を感じたことを逃がさぬよう網ですくい、そこにどういう知恵が潜んでいるのかを掘り下げる作業を続けている。ここまで振り返ると、建築より「人から学ぶこと」のほうが大きかったかもしれない。
連載はまだ続いており、そのなかの2005年の秋から2007年の春までの74編を、この本に収めることにした。掲載順を変えていないために、なかには一度書いたことを時間が経って反芻しているものもある。この期間には建築界にも、また政治的にもおおきなできごとが起こっているが、それらをダイレクトには取り扱ってはいない。いちいち敏感な反応をしていては、そこから新しい価値を見出しにくいものだ。それゆえ、眼前のできごとが建築の本質をめぐるテーマに結晶してくるまで、少し時間を置いて書いている。
筆者は、世の中に起こっていることは等しい価値を持つ、と考えている。正確に言えば、すべてのできごとには世の中を変える可能性があるのだ。だから、見逃さないようにしなければならない。タイトルについては、ロバート・ヴェンチューリの「ラスベガスから学ぶこと」(Learning from Las Vegas,1972)を意識している。彼が1970年初めのラスベガスの風景から建築の本質を見透したように、果たして21世紀初頭の街角からあらたな知見を掘り起こせるだろうか。