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2011年度JIA新人賞講評

2011年度 JIA新人賞  現地審査作品
作品名 設計者 事務所名
森のピロティ 長谷川 豪 長谷川豪建築設計事務所
ヨコハマアパートメント 西田 司/中川 エリカ オンデザインパートナーズ
日本大学理工学部
船橋キャンパス新サークル棟
山中 新太郎 日本大学理工学部建築学科
フラワーショップH
(日比谷花壇日比谷公園店)
乾 久美子 乾久美子建築設計事務所
Nowhere but Sajima 吉村 靖孝 吉村靖孝建築設計事務所



講評:高宮 眞介

 

本年度の応募は73作品と多く、本賞の歴史の重みを感じながら審査に当たった。

「新人賞」という趣旨からすると、建築の場所性とかプログラムに対する着想の斬新さ、デザインの先見性などが優先的に評価の対象になると考えられるが、 建築のクオリティや完成度も「新人賞」だからということで不問にされるべきではないと思う。 またコンペやプロポーザルでなく、実在する建築の審査であり、人を顕彰するという趣旨からすると、建築家の社会的視点や結果としての建築に対する責任のとり方も問われることになる。 2次審査を経た5作品はさすがにレベルが高く、審査委員の意見も分かれると思われたが、現地審査のプロセスは3人の評価をほぼ同じような方向に導く結果になったと思う。

 

西田さんと中川さんによる「ヨコハマアパートメント」は、そのプログラム的な提案において集合住宅のあり方に一石を投じる力作である。 木造密集地のようにアパートが建ち並ぶコンテクストをうまく建築に取り込みながら、GL部分に提案したプライベートとコモンとパブリックが干渉する半戸外的空間のデザインは実に巧みである。 一方、その実際の使われ方に少しばかり疑いをもって現地審査に望んだが、若い人たちによってごく自然に使われている様子は作者の意図したとおりであり、疑義を払拭するのに余ある風景であった。

 

乾さんの「フラワーショップH」は、建築のクオリティや完成度という意味では群を抜いていた。 サービス部門を地階に集約することによって生み出された店舗の分棟化は見事で、その斬新な着想は秀逸である。花崗岩の門型の建築群の佇まいは、 公園のパビリオン的であると同時に街並の都市建築的でもあり、公園と街並の境界という立地の場所性を巧みに捉えている。また、構造壁の厚さを極限まで薄くすることによって、 公園の樹下のような爽快な空間が生み出され、作者が意図した「快適なあいまいさ」を感得できる作品であった。

 


講評:赤松 佳珠子

 

今年度はいつにもまして、建築と社会との関係を考えさせられる年となった。 どんなに小さな建築であっても、様々な環境、背景、社会と向き合うことになる。 それらをどう読み解き、答えることができるのか。

 

「都市と公園の境界線上でその文脈を一気に引き受けた」と設計者が語る『フラワーショップH』は、 そのどちらにも迎合せず対立もせずに建っている。石の質感を残しながら軽やかさを生む外壁が凛とした静かな佇まいを生み出す。 緻密なディテールで構造や空調、雨水処理までを統合してみせる総合的な建築家の力量を感じた。

 

広場空間を2階の住人や地域の人たちが共有する『ヨコハマアパートメント』。 理念はわかるけれど本当にうまくいっているのか、との思いは完全に払拭された。 ここならではのラフな材料使い、アドリブが効いたディテール、三角形のメガ柱と各住戸へ上がる鉄骨階段。 それらが、光や風や視線が通り抜けていく広場と各住戸、そして地域との絶妙な距離感を生み出す。集まって住むことの新しい可能性を見せてくれた。

 

雪景色の中、衝撃的な現れ方をした『森のピロティ』。抜群のプロポーション、外の部屋のような魅力的なピロティ空間は夏に再び訪れてみたい。 学生の笑顔やアクティビティが溢れていた『日大サークル棟』は非常に丁寧に組み立てられた抜けのある明るい空間で、元気をもらえる建築だった。 『Nowhere but Sajima』は考え抜かれたディテール、部屋ごとに替わる仕上げ、海の風景の切り取り方などに、設計者の意志を見ることができた。

 

現地審査をするたびに、建築は体験しなければわからないということを痛感する、いい意味で驚きの連続だった。

 

そんな中で今回の新人賞の受賞者は両者とも、建築を作り上げていく強さと、建築の置かれている社会的背景や都市を読み込む眼差しの確かさにおいて群を抜いていた。

 


講評:千葉 学

 

今年初めて新人賞の審査をさせて頂いた。現地審査に残った作品はどれも極めて質の高い建築ばかりで、改めてこの賞の歴史と重みを感じながらの審査となった。 今年特に印象深かったのは、建築家の職能が従来の枠組みでは捉えきれないくらい、拡張しているということである。建築の企画に深く関与したり、 あるいは建築の完成後の使い方をプロデュースをしたりという具合に、建築を社会に定着させるための努力が惜しみなく行われている作品が多く、建築が生み出される背景も含めて興味深く見せて頂いた。

 

その中で、「フラワーショップH」は、むしろオーセンティックな方法とアプローチによってできていた作品である。日比谷公園の一角、日生劇場や帝国ホテルの向かいという極めて恵まれた環境(これは見方によっては、 極めて難しいコンテクストだが)において、いくつかの石貼りの建築が寄り添うようにして建っている。その秩序と透明性は、この地のコンテクストを豊かに浮かび上がらせ、店舗といったプログラムを超えた空間の美しさに結実していた。 緻密なディテール、構造や設備との統合など、新人という名には似つかわしくない力溢れる建築であった。

 

「ヨコハマアパートメント」は、1階に巨大な共有のピロティ空間を持つアパートで、そこを介して一緒に住むことの魅力が最大限に追求されている作品である。ピロティの過剰とも思える天井高、あっけらかんとするほどの開放性、 どこにでもありそうなありふれた素材、適材適所に変形されていくディテール、こうしたことのすべてが押し付けがましくない快適さを提供していた。そしてその快適さは、周辺木造密集地への確かな理解があったからこそと思わせる、 その土地ならではの空気感を持っていた。さらに完成後の使い方にまで建築家がコミットしていることで、集まって住むことの楽しさは、確かなリアリティを獲得していた。

 

いずれの作品も、これからの時代を担う建築家の作品として、高く評価すべきものであり、また今後を期待させるものでもある。

 



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