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JIAの建築賞
JIA新人賞
第11回(1999年度)JIA新人賞講評
1999年度JIA新人賞講評
講評:高宮真介
1999年度のJIA 新人賞には35の応募作品があり、第一次の書類審査で5作品を選び、現地審査のうえ最終審査で3作品を選考した。
本賞は、「新人賞」というタイトルが大変気になる賞である。募集要項の趣旨を読むかぎりでは、作品賞であることは勿論だが、「新人」については特定の他の賞を受けていない新進の建築家というぐらいで、特別な審査基準や内規もない。今年度の審査にあたっては、3名の審査委員がいろいろな局面で意見の交換をしたが、この「新人賞」ということも含め、建築家である各審査委員には当然、微妙な評価軸の差があり、それをお互いに認めながら審査を進めるべきだと考えた。私としては、作品のもつ時代性、可能性、将来性などをこの賞の評価基準にする一方、新人賞といえどもJIA の賞なので、完成した建築の評価のみならず、建築家としてどのように業務を遂行したかということも、大切な評価基準のひとつとして審査にあたることにした。
今村雅樹氏の「太田市総合ふれあいセンター」は、その館名からすると、いかにも凡庸なプログラムでつくられたハコモノ公民館を想像しそうだが、実際には、その全く正反対の施設で、地域住民とのワークショップをとおして得られた興味深いプログラムが凝縮した、都市を内包したような建築である。その建築の意匠も、散文的ではあるが決して迎合したところはなく、かといって押しつけがましいところがない。この種の建物にしてはローコストであることも勘案すると、設計者の卓越した力量が窺える。設計入札を止めて指名コンペにした市長はじめ、市の職員のこのプロジェクトに対する思い入れの大きさも相当なものであったと聞く。それに応えるようにコンペ入賞から実際の建築を立ちあげるまでとられた設計のプロセスは、公共建築に求められるアカウンタビリティーを十分に備えたものとして評価されるべきであろう。
古谷誠章氏と八木佐千子氏の「香北町立やなせたかし記念館・詩とメルヘン絵本館」は、新人とは言いがたい実力派の作品である。この建物は、3年前同じ設計者により建てられたアンパンマンミュージアムの別館だが、二つの建築は対照的である。設計者の案内で、最初にアンパンマンミュージアムのコンクリート打放しの門型の大きなロビー空間と、その周囲に展開される展示空間を巡り、空間構成の饒舌さと表現の巧さに感心した後に、「奥の院」ともいえるこの記念館を訪れた。こちらの建築は小高い丘を背景に、地面から少し持ち上げられ、高さを押さえた長いファサードには、木の縦格子のミニマルな表現が与えられ寡黙に佇んでいた。木造の斬新な架構への挑戦が秀逸な空間形式を生み、特異な光を展示空間にもたらしている。その架構から部位のデザインまで、新しい試みが破綻を生むことなく建築に昇華されており、躊躇することなく本賞にふさわしい作品として推すことにした。
吉松秀樹氏の「宇土マリーナハウス」は、今年度の応募作品の中でどうしても実際に現地で見てみたい建築であった。設計者の説明による「連続体メソッドによってモデリングされ」た空間は、期待を裏切らない意欲的な作品である。それぞれのボリュームごとに分節化された空間はトポロジカルに連結され、意外な関係性や特異な外部空間を生みだし、素材や部位の意匠にも新しい試みに挑戦しようという意欲が感じられる。またこの敷地全体をマリーナパークとして整備する発案や、駐車場をループ状にする提案など、単に建物だけにとどまらないランドスケープデザインにおいても興味深い作品である。一方、完成後1年は経っているが、今年の「くまもと国体」のヨット会場として使われるまでは、部分的に使用されているだけであり、将来とも設計者の意図に沿ったかたちで、建物が維持・運営されていくよう強く望みたい。
このほかに現地審査を行った2作品のうち、山口隆氏の「霊源皇寺透静庵」は、抜群の完成度を持つ作品であるが、その建築の自律性の強さが、場所やスケールに対する調停を遠ざけたのではないかという疑問を抱かせた。またもうひとつの作品である玉置順氏の「トウフ」は、小住宅としては豊かな空間形式をもつ秀作だが、素材や部位における完成度という点で入選とするには異論があった。
講評:松永安光
選考にあたり、昨年の新人賞講評でも触れられていたが、「新人」とは何かということで大いに悩んだ。応募者の少なからぬ人々がすでに立派な業績を上げており、いまさら「新人」と位置づけるのは申し訳ないと思われた。また、もう一つの問題は、応募作品と応募者自身との関係である。常日頃立派な作品を作られておられることは熟知しているが、今回の応募作品はそれらとの比較において最適のものであったかどうか判断に迷う場面も多かった。「新人」という人物に与える賞と位置づけるならば、一連の業績を対象として賞を与えるのが論理的であるとも思える。ここで作品を対象として与えられる学会賞と性格を分ける意義も出てくる。今後の論議にゆだねたい。
一方、「新人」という言葉の中に込められた意味合いを考えると、これまで知られていなかったすばらしい人物に巡り会いたいという期待も、多くの人々に共有されていると思われる。その意味で、今回は結果としてベテランによる公共建築ばかりが選ばれてしまい、学会作品賞と大差のない性格を露呈してしまい残念である。自分が選考に参加しておきながら無責任な発言であるが、他の審査員各氏との論議の結果こうなった。今回惜しくも選考から漏れた方も、来年はまた違うメンバーによる論議が行われるので、チャンスは十分ある。あきらめずに応募していただきたい。
太田市総合ふれあいセンター:今村雅樹
今や全国どこへ行っても目にする「ふれあいセンター」なるものの意義について私は懐疑的であった。しかしここを訪れていささかその認識を改めるに至った。この建物は隅々まで実に見事に使い込まれている。これほど賑わいのある公共建築を見たことはほとんどない。今村さんのいうとおり、プログラムの勝利である。一方、各所に見られるクリシェ化したイマ風の建築的モチーフが、新鮮さを大いに損ねており、非常に残念であった。
香北町立やなせたかし記念館・詩とメルヘン絵本館:古谷誠章+八木佐千子
ベテランである。しかも昨年の本賞の審査員である。「新人」とは全くいえない。そこで冒頭の論議を呼んだのであるが、ともあれ、応募作品を含め、四国の小さな町の一連の仕事において、古谷さんたちが努力してきた業績を評価しようということになった。実は、同じ敷地にある「アンパンマン・ミュージアム」が抜群に良い。写真ではほとんど理解の出来ない見事な構成で、これがこれまでしかるべき評価を受けなかったことを残念に思った。
宇土マリーナハウス:吉松秀樹
国体のために急遽企画された事業であったが、さいわい「くまもとアートポリス」に組み込まれたため、吉松さんが設計に関わることになった。吉松さんは他の磯崎門下の青木淳さんたちと同様設計方法論について積極的に発言してきた。その方法に必ずしも賛同するわけではないが、建築にテーマなんてないという時代に、何とか新たな道を切り開こうとしている努力を評価したい。この種の建築は往々にして理論倒れになりがちであるが、この建物にはそのような点が見られなかった。しかしこの建物の周辺は無神経な関係者による工作物により囲まれており、未搬入の家具とともに、吉松さんのコントロールが行き届くようなシステムが構築されることを強く希望する。
講評:宮崎 浩
約3箇月に渡るJIA新人賞の審査を初めて経験し、建築を客観的な視点で評価することの難しさを改めて思い知らされた。自分なりの評価軸を持って建築と関われば許される自らが行う設計と異なり、正直なところかなり戸惑うことも多かった。特に現地審査に進んだ5作品はどれも魅力的で、選定の視点を少し変えれば全く異なった結果になったであろう。3人の審査員の評価の基準にも異なった所があり、それはそれで良かったと思っている。私としては、特に応募作品が新しさと可能性を感じさせ、新人賞といえども建築として最低限の完成度を併せもつものを選ぶよう心がけたつもりである。
山口隆氏の霊源皇寺透静庵は、京都郊外の由緒ある寺院の庭園に埋め込まれた、美しい白いミニマルな抽象空間である。地上から僅かに突出したトップライトから差し込む光の中、透静庵は不思議な暖かさと地下空間の持つ静けさを併せ持ち、寺院建築として、又庭園として見ても魅力的な建築であった。その完成度も今回現地審査した中でも特に秀逸であったが、この作品の評価は、審査員の中で意見が分かれ、今回残念ながら入選をのがした。しかしこの作品と作者の建築への取り組み方を見ると、山口氏が再度話題となる作品を生み出すことは間違いないと思われる。
玉置順氏のトウフは、雑誌等で既に発表され、個人的にも注目していた作品であり、是非実際の建築を現地で見たいもののひとつであった。設計者の案内と説明を聞きながら見たトウフは、作者のイメージ通りの白いヴォイドがこの建築の中心となり、豊かな空間を生み出していた。ただ主空間と従空間の関係やそのデザイン上の在り方、コスト上の問題もあったと思われるが、構造システムや素材の選択が、この建築における最適な解であったかどうかと考えさせられた。
太田市総合ふれあいセンター:今村雅樹
コンペ当選実施案である。この作品の大きな特徴のひとつに、コンペ案のコンセプトや特徴的な空間構成を守りながらも、その後のプログラムや使われ方の変更を積極的にデザインに取り入れ、前向きに建築化していることが挙げられる。公共的な建築では容易なことではない家具や什器のデザインや、竣工後の建物の在り方まで関わっている作者の真摯な態度と心意気が、この建築の質を高めている。ただひとつ残念に思われたのが、まだ外構が未完成で、コンペ案の持つ植栽計画の魅力や、建物と外部との心地良い関わりが薄くなっている点であった。
香北町立やなせたかし記念館・詩とメルヘン絵本館:古谷誠章+八木佐千子
古谷誠章と八木佐千子の両氏によるこの作品は、1996年に竣工したアンパンマンミュージアムと重ね合わせてみるとより魅力的である。一連の町並みとして、そしてやなせたかし記念館としても2つの建築が相乗的にその効果を高めている。単体の建築としても、木造の連続する門型の不思議な架構からなる絵本館の北側ファサードは、新しい試みとして大変興味深いものであった。外部からは一枚の壁の様に、周辺の環境からこの建築の存在感をきわだたせ、その架構のスリットからの細かい光の連続は、透明なスクリーンのように外部の環境をさりげなく取り込み、単純な構成の中に豊かな内部空間を生み出している。あえていえば、建築の構成が理知的であるがゆえに部分的なデザインの饒舌さが気になった。
宇土マリーナハウス:吉松秀樹
この作品は、いくつかの機能別ブロックを、作者独特の造形処理に依ってまとめあげた小さな建築の集合としての街のような建築である。各ブロック間のスペースが非常に伸びやかで、かつ内部と外部が複雑に交差し魅力的な空間となっている。また、マリーナ全体としても的確なスケールで見事にまとめられている。ただこの作品で気になることは、この建築がまだ実際に使用されていない為、当然人の気配や生活感がなく、建築としての十分なリアリティーをまだ生み出していないことにある。建築では実際これから先に多くの難関が待ち受けていることが多い。個人的には、このような挑戦的な作品こそ、もう少し応募を先送りしてでもこの過程を踏めば、今以上のものを見つけ出せたのではないかと感じられた。
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